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第2話 鋼鉄の勇壮曲 作:アルベルトさんガガガガガッ!!! 武装したランドクルーザーの屋根に装備された13mm機銃が火を吹き、その銃口から吐き出された8発の弾丸は直線軌道を描く。 狙った先は、暴走牛アーマードブル唯一の弱点―――額にある、第三の目。 上下幅3cm、左右幅は6cm。 銃口からその目まで、たったの15mしか離れていないとはいえ、正確に撃ち抜くにはブレが激しすぎる。 にもかかわらず、発射された弾丸のうち一発は見事に眼球を潰し、その奥の脳さえもミンチと変える。 その装甲牛は断末魔の叫びを上げることもなく、その巨体を地面へと横たえた。 (あと4匹!) ヘルメットに装着されたレンズから後方の状況を素早く把握し、次の標的を求める。 彼のヘルメットとクルマの外に付けてあるカメラは有線で繋がっており、 肉眼で外の様子を確認することができなくとも、全く不自由することなく戦うことができる。 崩壊した文明の遺産、かつて‘アパッチ’と呼ばれたヘリコプターの装備だ。 これを手に入れるのに、3年分の稼ぎをフイにしたが、その甲斐は充分過ぎるほどあったようだ。 しかし (残り7発。これじゃ少なすぎる) 反対に標的の数は4匹。一匹に1発で仕留めることができるほど、このターゲットシステムは高性能ではなかった。 (このままでは勝てない) そう思った後の彼の行動は素早かった。 今までは先頭のアーマードブルから15mきっかり先を走っていたのだが、一気にスピードを上げ50mまで引き離したのだ。 「あのエリアに辿り着ければ何とかなる。それまで何も邪魔するなよ」 そう呟くと、後ろに向けていた機銃を前に戻し、僅かな隙間から周りの様子を伺った。 (よし、何も居ない。このままなら行けそうだ) 僅かな望みを胸に、クリスはただクルマを走らせた。 (よし、もういいだろう) 戦闘エリアを変えてから、およそ20分後。 それまで一定間隔を置いて走っていたのだが、さらにスピードを上げだした。 装甲牛の最大速度は80km/h、クルマの速度は130km/h。その差はぐんぐんと開いていく。 そして、クルマと牛との間隔が800mまで開いたところで、クリスはおもむろに速度を落とし始めた。 そして、神に祈る気持ちでスコープカメラをONにし、周りの様子を伺う。 (いたっ!) それを見つけた時、思わず叫びたい気持ちに駆られた。砂の中を走るサメの背ビレ。 距離はおよそ500m、しかも装甲牛と自分との直線延長上に居る。 牛と砂ザメを鉢合わせにするには、まさに最高のポジションだった。 しかし、そのためにはまず、砂ザメの注意をこちらに向ける必要がある。 それも下手に知恵を使われて、周り込まれたりしないようにもしなければならない。 少し考えた後、クリスは最もシンプルな手段を取った。背ビレに向けて機銃を撃ったのだ。 弾薬箱に残された7発の13mm弾は全て砂ザメの背ビレに当たった。 しかし (おかしい。13mmなら貫通できるはずだ) クリスはダメージを与えるつもりで撃ったわけではない。 しかし、砂ザメの背ビレなら弾き返されないと思ったのだ。 だが、現実に7発の弾丸は全て跳ね返されていた。 クリスの脳裏に言い知れぬ不安感がよぎる。そして、その理由はすぐに知ることとなった。 砂の上に飛び上がったその体が、クリスの予想以上に大きかったのだ。 (くそっ、アイツは砂ザメじゃなかったのか!) 一般的に「砂ザメ」と呼ばれるモノは最大でも8m前後だ。 しかし、何かの理由(突然変異、又は単純に成長する)でその体は2倍以上にも成長する。 そして、それほどの巨体を持ったサメは「スナズリー」と呼ばれるようになる。 クリスが目の当たりにしたモノは、まさしくそれだった。 スナズリーは移動速度こそ砂ザメと大差ないが、生命力・攻撃力、そして防御力は砂ザメのそれを遥かに上回っている。 特にその体は48mm砲でも傷一つ付かないほどと言われていた。 「全く、今回は利用するだけで助かったよ。今の装備じゃ食われるのが落ちだからな」 そう呟くと、ギアをニュートラルに入れ、どの位の距離まで近づかせるか考えながら、その時を待った。 そして、ついにその時が来た。 左手には80km/hで爆走する装甲牛、そして右手には40km/hで砂の中を移動するスナズリー。 両者の距離は、クリスを中心に100mまで接近していた。 (今だ!) 両者の距離が30mまで接近したところでクリスはギアをドライブに入れ、同時にアクセルを思いっきり踏みつける。 強引な発進に悲鳴を上げるエンジン。しかし、3t近くもある車体は、わずかコンマ秒単位のラグ差で走り出した。 それから約3秒後に最初の断末魔の叫びが上がる。 クリスの計算通り、装甲牛とスナズリーを鉢合わせにする作戦は見事に成功したのだった。 惨劇の場から走り去りながら、バックミラーを見る。どっちも追ってこないようだ。 スナズリーは新たな獲物に、アーマードブルは予想外の敵の出現にクリスを追うどころではなくなっていた。 (最終調整は終了。しかし、このことをあいつが知ったら怒るだろうな) クルマに搭載したBSレーダーで現在位置を確認し、仲間達の待つ街へと走り出す。 時間にして40分も経っていなかったが、クリスは自分が沢山の物を得たことを確信していた。 ギリギリの状況でのクルマの操縦、運転しながらの銃の操作。しかし、もっと大きなものを得た。 それは クルマと武器、そして優秀な頭脳と勇気があれば、人はモンスターに勝てるということだ。 「帰ってきた、帰ってきた!」 双眼鏡を覗いていた男が叫ぶ。その言葉に隣にいたクリスの仲間のアレックスが反応する。 「クリスか!?」 街に着いたトレーダーと取引するため、ほとんどの人は街の中心にある広場に集まっている。 しかし、アレックスだけは「アイツの無事を確認するまでここに居る」と言い張り、ずっと監視塔に残っていた。 もう一人の男は単に「監視」という役目を与えられただけだったが。 初めの頃こそ、無言で走り去ったクルマの方を覗いたままだったが、今は変わって、まるで面白い物を見つけた子供のような口調になっている。 「ああ、そうだ。戻ってきやがった。モンスターに喧嘩売って生還するたぁ、はっはっは、やってくれるぜ。 おい、アレックス、広場に……」 そこまで一気に喋り、後ろを振り向く。しかし、既にアレックスはそこには居なかった。 「………人の話は最後まで聞け」 そう小声で悪態を付き、また監視の仕事へと戻っていく。 そして、肉眼で確認できるようになったクリスの乗るクルマを見つめ続けた。畏敬と羨望の眼差しをこめて。 そのクルマが門に辿り着いたのは、それからおよそ10分後だった。 出発してから2時間も経っていないのに、そのボディに付着した埃はまるで10年前の物の様な錯覚を起こさせる。 何より、閉じた門の前で一端停止した瞬間、フロント部分から吹き出した真っ白の煙は、かなり酷使されたことを切に語っていた。 それは同時に、このクルマの性能と限界をクリスは知り尽くしていた証明でもあった。 「よく戻ったな、クリスよ! どうやったら、そんなにエンジンがボロボロになるんだ?」 門の開閉スイッチを押しながら、無線を通じてクリスに話しかける。 「ただいま、テッド。やっぱり年寄りに無理させるもんじゃないね」 クリスも無線で答える。その口調は、さっきまで死闘を繰り広げた人とは思えないほど、快活だった。 戦いでの興奮、そして勝利の喜びが彼から疲労を殆ど拭い去っていたのだ。 「まぁ、相手が相手だからな、仕方ないだろう。ああ、15分ほど前か?アレックスが広場に走って行ったぜ。 他の連中も集まってるだろう。早く行ってやれ」 「ああ、そうするよ。こいつをしまうのはその後だ」 そう答えると、クリスはゆっくりとクルマを発進させた。自分の帰りを待つ、仲間達の所へと。 クリスの乗るクルマが広場に入るや、周囲は割れんばかりの拍手と喝采に包まれた。 クルマの近くに居た者は、その苦労を労うように窓を軽く叩いた。 「よく生きてたな!」 「あのバケモノ共に喧嘩売るたぁ、やるじゃねぇか」 広場に集まっていた観衆が口々に労いの言葉を掛ける。この街は人口100人足らずの小さい街だ。 誰もがお互いを知っている。当然、クリスのことも、そして彼が武装したクルマ一台でモンスターの群れに戦いを挑んだことも。 「ここに居る全員が、お前が生還すると信じてた。だから、それまでトレードを中断してたんだ」 いつの間にかやって来ていたトミーが、クリスの肩に手を置きながら話しかける。 その顔はまさに父親同然であった。成長した息子を見守るような。 小さかったクリスを育ててきた彼にとって、今回の偉業を誰よりも喜んでいただろう。 「お前のせいで、10年は余分に年を取った」 冗談のような、トミーの呟き。その意味は、付き合いの長いクリスだからこそ、理解しえるものだった。 「性分だから」 そう返すと、クルマの運転席に乗り込む。 「これ、置いてくる」 そう言って、彼はクルマを発進させた。トレードを行っている広場の人達に邪魔にならないように。 「やっと帰ってきた」 クリスがクルマから降りたところで、後ろから声を掛けられた。 怒っているのか、安心しているのか判らないような口調だ。それが性格故か、故意になのか。それはクリスにも判らなかった。 「ああ、お蔭様で。ただいま、レベッカ」 「お帰りなさい、クリス」 感情を全く感じさせない言い方。普通の人は、鈍感と取ることが多いが、クリスにはその言葉にふくまれた感情が理解できた。 怒り。 憎しみ。 そして、後悔。 ただ、それが誰に向けられたものかまでは感じ取れなかった。 しかし、彼女が何をしようとしているのかは判る。エンジンルームのチェックだ。 彼は黙って、フロントカバーのロックを外した。 「また随分と派手に戦ったわね」 ゴーグルとグローブを付け、カバーを外すなり、そう口にする。 2時間足らずでエンジンルームから白い煙が出るのを見れば、誰でもそう言っただろうが。 クリスはその言葉には答えず、黙って肩をすくめただけだった。 そして、レベッカの邪魔にならない位置に移動し、その様子を眺めていた。 レベッカは、この街出身ではない。今から4年前、このランドクルーザーに乗ってやってきた。 そして、そのままクリス達のグループに落ち着いたのだ。 それ以前の彼女を知る者は居ない。 そのことに触れられる度に、彼女は何かと言って避けてきたからだ。 今では、‘不可侵’のものとして触れることはなかった。 しかし、クルマの整備をしているレベッカを見て、クリスにある疑問が浮かんできた。 それは今思ったことではなかった。 以前は、大した問題ではないと思っていたが、実はもっと大きな問題ではないのか、と思うようになっていた。 初めて見たときはボロボロだったこのクルマの整備を行うようになったのは、いつだったか? このクルマを武装させることを考え付いたのは、彼女ではなかったか? 戦うために必要な装備を、何故彼女は知っていた? 彼女はこのクルマで何をしようとしていた? 本当に戦いたかったのは、彼女ではないのか? と。 「私のこと、まだ話してなかったよね」 唐突にレベッカが口を開く。 「あ、ああ…」 考え事をしていたクリスは、一瞬反応が遅れた。 そのため、曖昧な返事になってしまったが、レベッカは気にしてないようだった。 「私、元はトレーダーだったの。私の家族と、他にも3、4人くらいでグループ組んでた。 ここに来たきっかけは、さっきと似たような理由からよ。キャンプをしていたところに無人兵器が襲ってきたの。 あっという間にトレーラーが炎上して、みんな慌てて逃げ出したわ。 私は、トレーラーのコンテナにあったこのクルマのことを思い出して、これに乗って逃げてきたの。 私が無事なら、みんなとも会えると思って。でも………それっきり、誰とも会えなかった」 彼女のその手は、いつの間にか止まっていた。 「その時決心したの。いつか、ヤツらに復讐してやるって。この、私に残された唯一のクルマで、ヤツらを皆殺しにしてやるって」 「そんな大切なクルマを、何故オレに?」 クリスの問いに、彼女は少し待って答える。 「私は整備のことは知ってる。でも、戦いの術は知らない。だから、あなたに渡したの。 このクルマを活かしきれると思ったから。でも……」 そこまで言うと、彼女はしばし黙り、そして先を続ける。 「トレーダーが客の売り物を勝手に使うのはご法度。このクルマは売る相手が決まってた。 それを知ってて、私は持ち出したの。そして、それを他人に渡して、私の代わりに命懸けの戦いをさせてる。 …私って、最低の……女でしょ」 背中を向けているため、彼女の表情は判らない。だが、クリスには彼女の気持ちが痛いほど理解できた。 彼女は泣いていた。 今まで、自分の感情を表すことなど滅多になかったレベッカが。 そんな彼女の様子に戸惑いながらも、クリスは声を掛ける。 「生きるためなら、オレも同じことをしたさ」 少しの間考え、一人にした方がいいと判断したクリスは倉庫を去りながら、一言、にする。 自分にでも言い聞かせるような口調で。 「君が悪いんじゃない。世の中が悪いんだ」 その言葉を背中に受けながら、レベッカは一人、泣いていた。 誰も居ない倉庫で。 4年間、胸の奥に溜まっていたものを吐き出すかのように。 ただ、泣いていた。 琥月の感想 アルベルトさんからの投稿です。 さて、装甲牛アーマードブルの暴走を止め、人間はモンスターに勝てると確信したクリス。 これからクリスはどのようにして、人々を導いていくんでしょうか。 そして、昔に家族を失っていたと言うレベッカの告白。 これからの展開に期待です。(^^; アルベルトさんありがとうございました。m(_ _)m あと、これも手直ししています。 僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。 アルベルトさんも、これはこうしてほしいなどの意見があればくださいな。 アルベルトさんへの感想はこちらです。 prev << novelsmenu >> next |