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第3話 荒野を駆ける幻想曲 作:アルベルトさん「護衛…ですか?」 「そうだ」 その言葉の真を問いただすような口調。それに答えるのは何の飾りっ気もない声。 わずか数秒足らずのこのやりとりがあってから、およそ15分が経とうとしている。 ここは、町の南側にある建物。かつては「コウミンカン」と呼ばれていたが、それを知る者は誰も居ない。 その中で最も広い部屋に、彼らは集まっていた。総勢11名。クリス達は、いやクリスは滅多に来ない客を迎えていた。 つばの広い帽子、埃まみれのマント、無骨で丈夫なだけが取り柄のツナギ。 背中にはライフルが、腰には大口径のマグナムを下げている。典型的と言うには変な表現だが、彼はトレーダーだった。 昼間の一件の後、町の中央広場での取引を行い、一端は宿屋へと戻っていった。 だが、クリスらが夕食を終えた頃、突然現われたのだった。彼は自分を「マリオ」と名乗り、クリスに言った。 「護衛として雇いたい」と。 それからずっと沈黙が続いている。マリオは、この場に居る全員が自分を歓迎してないことに気付いていた。 だが、人の目を気にしていてはトレーダーなど務まらない。まして10人以上のグループのリーダーを連れだそうというのだ。 もっと、あからさまな皮肉、あるいは反対意見が出ると思っていた。しかし、実際は誰一人として発言しようとしなかった。 普通の人の何倍もの経験を積んだと自負する彼には、その理由がよく判った。 全てクリスに任せる。 10歳かそこらの子供からどう見てもクリスより年上の連中まで、誰も口出しすることなく自分のリーダーが口を開くのを待つ。 20歳にもならない子供のどこに、それだけのカリスマ性を秘めているのか、マリオはずっと考えていた。 その想いは、クリスを雇うということから、仲間として迎え入れたいと思うようになっていった。 「改めて言うが、君ほどの力を持った人物を砂に埋もれさせるのは、非常にもったいないことだ。 こんな小さな町に収まっているような人間ではないことは、君自身が一番判っているはずだ。だが」 そこまで言うと、彼は一息入れ先を続ける。 「今ここで答えを求めるのは、無理なことかもしれん。だから、明日の日の出まで待とう。 太陽が完全に昇りきる前に我々の居る宿屋に来なければ、拒否したと見なす」 そして、椅子から立ち上がるとそのまま早足に立ち去って行った。 「わざわざ残ってもらったのは他でもない。さっきのトレーダー、マリオさんのことだ。 本当なら、みんな居る時に話すべきなんだけど……」 夜もすっかり更け、殆どの仲間は眠っている。 今、1階の広間に居るのはクリスと、彼が特に信頼する仲間―――アレックス、レベッカとケイン―――だけだった。 みな、クリスと同年齢かそれ以上だった。これまでも、チーム全体に関わる問題にはこのメンバーで話し合うことも多々あった。 「まぁ…今回はかなり重要だからなぁ。もっとも、それだけにチビッコ共に口出しされたくなかったんだろ?」 ひねくれた、しかし的を突いたケインの意見に、クリスは苦笑いをこぼす。 「その通りだよ。理屈で考えれば、行くべきじゃないことは判ってる。でも、今回だけはそれが正しいとは思えないんだ。 行きたい、いや、行くべきだという気がするんだ」 「行くべき、ねぇ……」 そう言うとケインは頭の後ろで手を組み、天井を仰ぎ見る。 そして自分は何も言うことが無いといった風に、そのままの姿勢で座っている椅子で遊び始めた。 「オレ達の意見はともかく、お前はどう考えてるんだ?」 メンバー最年長のアレックスが、ゆっくりと口を開く。 「どう、って…?」 「彼らと行くべきだと、今思ったわけじゃないだろう?そう思わせる何かを、ずっと思ってたはずだ。危険な旅に出る理由を、な」 「理由……か」 そう呟くと、手を組み何度も深呼吸をする。そしてゆっくりと、上手な表現を考えながら口を開く。 「オレ達はずっと、あいつらの獲物にされてきた。あいつらは人間を狩っているんだ。 生きるためでもなく、縄張りを守るためでもない。ただ、楽しむためだけに。それに対して、殆ど抵抗することはできなかった」 そこまで言うと、クリスは机に身を乗り出し先を続けた。 「それは当然だろ?あいつらは足も速いし、体も頑丈だ。擬態や飛行能力を持ってるものさえ居る。 こっちは生身の人間だ。まともな武器さえない。勝てるわけがない」 ここまで一気に話し一息入れ、普段の口調で話し始める。 「やつらに勝つには、まず武器が要る。なにより仲間が。でも、これだけじゃ足りない。 人一人が持てる重さには限界があるし、普通の人を集めても殺されるだけだからね。でも、それに‘ある物’が加われば、勝てる」 「それが…クルマね?」 ずっと黙っていたレベッカが口を開いた。 その問いに頷くと、三人を見回しさらに続けた。 「幸い、ある程度の武器は彼らが持ってる。充分とは言えないけどね。それに戦いの方法だって知ってるだろうし、 何より旅に慣れている。後足りないのはクルマとそれに積む武器だ」 「簡単に言うけどさ。どうやって手に入れるつもりだ?」 それまで聞くとも無しに聞いていたケインが訊ねる。 「荒野のどこかには、大破壊以前の代物が眠ってるって聞いたことがある。トレーダーのトラックは大概がそうだし、 彼らなら戦闘用のクルマの在り処を知ってるかもしれない」 「希望論だな」 アレックスの一言に思わず苦笑いを浮かべるクリス。だが、そのすぐ後には真面目な表情に戻る。 「否定はしないよ。でも、誰かがこの世の中の流れを変えなきゃ。狩られる立場から狩る立場にならないと、 近いうちに人類は絶滅する」 「救世主になるつもりか」 「別に世界中のモンスターを殺そうとは思ってないよ。でも、きっかけになることはできるはずだ。 今の大人達は知らないだけなのさ。武器さえあればモンスターにも勝てるってことを。だから示してやるんだ。 世界中の人達が立ち上がれば、やつらに勝てる。いや、勝たなきゃならない」 それを聞き、アレックスは大きくうなずいた。 「どうせ最初から反対する気はなかったからな、お前のやりたいようにやればいい。ここに居ない連中も納得するだろう。ただし」 そこで一端話しを区切る。 「一人で行くのはナシだ」 「そう言うと思ってたよ。それに一人でやれると考えるほと自惚れちゃいない。だけど、死にに行くようなものであることに変わりは無い。 だから、僕からは指定しない。希望する者を連れて行くつもりだ」 「私も行く」 間髪入れずに言ったレベッカに、思わず彼女を見るアレックスとケイン。 しかし、彼女の真剣な表情に言わんとしていた言葉を飲み込んだ。 「一つだけ確認しておくけど」 恐らく彼女が名乗り出ると思っていたクリスはさほど動じなかったが、念を押すように話し掛ける。 「僕達はモンスターと戦うために行くんじゃない。むしろ、逃げる方が多いだろう。 最悪の場合、最初に出会ったヤツに殺される可能性だってあるんだ。 殺すのが目的なら、もっと装備を充実させてからの方がいいに決まってる。むしろ、この機会は外すべきだ」 「この今の機会を逃したら、私は一生後悔するわ。それに、ヤツらと戦う方法を見つけに行くんでしょ? だったら、見つけてからでも遅くないわ。それに……」 そういうとレベッカは椅子から立ちあがり、階段の方へ向かう。そして、おもむろに振り返り微笑みながら言う。 「あのクルマを整備できるのは私だけよ」 その言葉に思わず吹き出すクリス。 「そう言われればそうだ。僕にはあれは整備できないよ。でも」 その先を言おうと思ったクリスだが、思い直したように途切れさせる。そして首を横に振りながら誰とも無しに声を掛ける。 「まぁ、いいさ。さっさと準備を済ませてしまおう」 その言葉に、アレックス・ケインも席を立つ。これから戦場へ赴く彼らの為に、すべきことをするために。 「銃も持っていけ、それから弾薬も。保存食も必要だろう」 「ありがとう、手伝ってくれて」 「気にするな。これくらいしかしてやれないんだからな、オレ達は」 そう言うとアレックスとケインは、倉庫へと降りていく。二人に必要な物を取りに行くために。 夜明け。 この町唯一の宿屋の前には、大型のトレーラー三台とそのドライバーがあった。いや、正確には、居た。トレーラーとドライバー。 その二つはまるで彫像か何かのようであった。東から昇る日を背に佇む姿は壮観なものだが、それを誉める人は誰一人として居なかった。 「で、マリオ。その子供らは本当に来るんだろうね?」 三人の内の一人、緑のバンダナをした女性―――背の高さや髪型は男性並だが、声は明らかに女性のものだ―――が口を開く。 もっとも、尋ねたというより独り言のような口調だったが。 変わってもう一人、巨漢の男が言う。 「日は昇った。もう少し待つか?」 ややあって、マリオが巨漢に答える。 「その必要はない」 そう言うと後ろを向く。 「来た」 その言葉を確認するかのように、目を細める二人。確かに、朝日が町中を照らす中、一台のクルマが走ってくる。 注意しなければ判らないような一台のクルマをあっさりと見つけたことから判るように、マリオの視力は尋常ではない。 逆光の中を迫り来る戦車の群れを見極め、レーダーの届かない所に潜むモンスターを見つけたこともある。 常人には持ち合わせない能力のあるクリスとマリオ。ある意味では、似たもの同士であった。 「よく決心したな、クリス。もちろん、オレ達は君らを歓迎する」 クリスとレベッカがクルマを降り、お互いに挨拶を交わす。 「よろしく。僕はクリス。こっちはレベッカ。彼女も一緒に来ることになった」 クリスの言葉に軽く頷くマリオ。 「二人はオレの同士だ。バンダナ着けたのがアガサ、デカい図体したのがディアスだ」 そう言って、クリスらに向き直る。 「報酬は日当50G、モンスターに襲われそれを撃退したら、さらに50G払おう。それでいいか?」 「ええ、構いません」 それを聞き、マリオらはそれぞれのトレーラーへと向かう。 「急ぐぞ。日のある内に距離を稼ぐ」 ほどなくして、四台のクルマは町の門を通り抜ける。荒野を疾走する彼らを待ちうける運命を知る者は、誰一人として居なかった。 琥月の感想 アルベルトさんからの投稿で、第3話 荒野の幻想曲です♪ ついに町を出て、世界を救う希望を求めて旅立つクリス達。 共に行くことになったトレーダーのマリオ達はどこへ向かうのか。 そして、クリス達の旅に何が待ちうけているのか・・・ おもしろくなってきましたね。(^^; アルベルトさんありがとうございました。m(_ _)m あと、これの文章は手直ししています。 僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。 アルベルトさんも、これはこうしてほしいなどの意見があればくださいな。 アルベルトさんへの感想はこちらです。 prev << novelsmenu >> next |