もう一つの伝説

第4話  火薬とオイルの即興曲  前編

作:アルベルトさん



「右前方130mにバルカンチュラ5匹!」
「OK、任せといて♪」
軽快なノリの言葉と同時に、取りつけ式のキーボードの上を細い指が滑っていく。
車に積んである13mm機銃のロックが外れ、小型モニターには迫ってくるバルカンチュラの群れと、画面上部に「AUTO TRACE」の文字が出る。
少し経つと、戦闘の一匹に赤いレティクルサイトが付き画面には「ROCK」の文字が浮かび上がる。
それを確認すると、先ほどキーボードを操作していた指が赤く塗られた大き目のボタンを

押す。

ズガガガガッ
12発/毎秒の速度で撃ち出される50口径の弾丸。 バースト・システムを搭載しているとはいえ、ストップのかかる5発を撃ち出すのに1秒とかかっていない。
そして、狙われたバルカンチュラは、文字通りのスクラップと化していた。
それでも火器管制システムは処理を止めることなく、次のターゲットを補足する。
「ROCK」されたピープ音。
ボタンを押す指。
撃ち出される弾丸。
残骸となるモンスター。
そのサイクルが5回続いたところで、無線機から呼びかけが入った。
「ご苦労さん。もっとも、あの程度で苦労してもらいたくはないけどね。あと30分ほどで町に着くよ」
「了解、アガサ。丁度こっちの弾薬も尽きかけてたところだった」
アガサと呼ばれた女性に返事する。一瞬で終わったとはいえ、モンスターと戦っていたドライバーとは思えない口調である。
彼の名はクリス。20歳になったばかりの青年である。
「そうかい。ここいらは雑魚ばっかりだからね。そっちの火器管制システムの調子はどうだい?」
「大体80〜85%といった辺りです。まだ狙撃は無理かも」
この質問に答えたのは、助手席に座っている女性である。彼女の名はレベッカ。
先ほどからのやり取りから判るように、火器管制及び、その他の計器を担当している。
「ふ〜ん……ま、それくらいなら問題ないだろ。むしろ、弾数だよな」
「確かに。最高200発は、少し心許無いです。精々、300〜400発。欲を言えば500発は欲しいですね」
レベッカに変わって答えるクリス。そのバカ丁寧な口調に、アガサは苦笑した。
「おいおい、あたし達は仲間だろ?そのバカ丁寧な話し方は止めな」
「年上の人には敬意を払え、と教えられてきたもんで」
飄々ととぼけたような言い方に、アガサは堪えきれずに声を出して笑い出した。
「ま、好きなように呼ぶといいさ。……おっ、見えてきたね」
アガサの言葉通り、地平線の彼方に明らかに人工の建築物と思われるものが見え出した。
かつては大きく、そして賑やかな街だったのだろうが、大破壊のせいで見る影も無くなっている。
それはまるで、巨大な墓標のようでもあった。
「アトランティス・シティ。物資の調達にはもってこいの街だ」
無線から聞こえるマリオの声に、クリスは何かを感じた気がした。
大破壊以前は、別の名前で呼ばれていた。そして、多くの人が希望を抱き、夢を抱いてこの街へとやってきた。
‘自由の街’、‘夢を与える街’と呼んで。
混乱の中に朽ち果てていったとしても、訪れるものに不思議な感情を与えることは変わってないのかもしれない。

もはや、誰も覚えていない、その都市の本当の名前。
その名は。
ニューヨーク。


その街に近づくにつれ、そこに建ち並ぶ建物の大きさのほどが判ってくる。
ほぼ全ての建物は崩れ落ちるか、全体の一部しか原型を留めていない。
それでも、10階建てのビルも幾つか残っている。この時代にあっては、脅威的な高さと言えるだろう。
そして、大きく崩れた壁からは、単装、あるいは連装の機関銃の銃身が覗いているところさえある。

要塞。

そんな言葉がぴったりとくる。クリスはふと、自分の居た町にあった88mm砲を思い出した。
同時に、トミーや残してきた仲間達、親切だった町の人達も思い出す。
(今頃何をしてるんだろう?モンスターに襲われたりしてないだろうか?)
そんな他愛も無い疑問が頭をよぎる。そして、そんな思いを断ち切るように口元を歪ませる。
普段ならそんな様子に声を掛けてくるレベッカも、初めて見る大都市に見とれているようだった。
モリス・タウンを旅立って早一週間。クリスは多くの物を得たと実感していた。
同時に、自分が非凡な才能を持っていることも理解していた。
マリオ曰く、「一週間生き延びたトレーダーは、全体の半分にも満たない」らしい。
だからと言って、自信過剰になることを強く戒めている。気が大きくなれば、同時に隙もできる。
冷静に考えれば助かったのに、命を落とした話はトミーからよく聞かされた。
(今までは無事やってこれた。だからといって、これからもそうだとは限らないからな)
そう強く心に刻み、クリスは街の中へとクルマを走らせた。

当然だが、どこの町にも検問はある。もっとも、このご時世に人間同士で戦おうとする酔狂な人間など居るはずもなく、
トレーダーでもないのに旅をしようとする命知らずも居るわけがない。
だから検問とは名ばかりで、名前と顔を確認するだけで通してしまう。
(マリオ達が来たときは確認は後回しになったけど、ここではどうなのだろう?)
そんなことを考えながら、ゲート近くまで移動するクリス。そして、肩にロケットランチャーを担いだ男が話し掛けてくる。
「名前は?」
「クリストファー・ジャクソン。彼女はレベッカ。姓は無い」
男は手に持っていた用紙に、その名を書き込む。
「随分と立派な車だが、戦争でも始める気じゃないだろうな?」
やはり来たな、とクリスは思った。トレーダーの護衛など、誰が思いつくだろう?
「まさか。護衛ですよ、彼らの」
男はそれを聞き、2,3度頷く。そして、改めてその異様な車を見渡す。
ポールと鉄板で補強されたボディ。幾つもの鋭いスパイクの付いたタイヤ。
近くに来るだけで、腹の底に響いてくるようなエンジンはどこかの大型車から取ったものだろう。
そして、屋根の上に鎮座している13mm機関銃。
美しいと男は思った。余りにもバランスが取れていると。
部品の一つ一つを見れば、雑で洗練されたイメージは全く与えない。だからこそ‘想い’が感じられた。
もっとも、それが「友情」だの「愛」だのといったものとは全く思っていない。「憎しみ」、「怒り」そして「憎悪」。
モンスターに対する復讐心が作り上げたものだろう。
だからこそ、美しいと思った。
干渉の予知を全く与えず、問答無用で敵を薙ぎ払う。兵器が兵器である所以。完全なる闇は華麗でさえあった。
「若いのに大した度胸だ。いいぜ、通ンな」
走り去るその車を、男はいつまでも見つめ続けていた。

ゲートを抜け、4台の車はゆっくりと通りを走っていく。言われるまでもなく、この街はこの辺りで最も大きいことが見てとれた。
既にその殆どが崩れ去っていたが、道路の両脇にぎっしりと建ち並ぶ建物は見てて飽きなかった。
「悪いが先に仕事を済ませる。宿探しはそれからだ」
「了解」
マリオからの無線に簡潔に答える。そして、宿を決めたら街の見物に行こうと心に決めた。
それからは会話も無く、ただ車を走らせるだけだった。ふと、クリスはこの辺りに人影が見当たらないことに気付いた。
そう思って改めて見ると、建物の中も何かの店或いは居住区である様子すらない。
(大破壊で多くの人が死んだ。ここも例外じゃなかったんだな)
多くの人の命を飲み込んだ街。ここがかつては墓場だったと言われても、何の違和感も感じさせない。
そんな雰囲気がここにはあった。

「バリ・パーク、ここでブツの取引をする。クリス、レベッカ、悪いが荷物を降ろすのを手伝ってくれないか?」
広場から少し離れた所に車を止め、降りてきたマリオが言う。
「随分と賑やかなのね、いつもこうなの?」
アガサと一緒にトレーラーから荷物を降ろしていたレベッカが隣の女性に尋ねる。
「いや、今日は特別さ。3ヶ月に一度、この街はオークションを開く。売りに出すやつも居るし、別の街からわざわざ来たやつも居るだろうね」
確かに、周りには自分達以外の車も幾つか目に留まる。
クリスの愛車のように武装しているわけではないが、長距離移動くらいは充分できるのだろう。
「以前は、この近くに重機工場があったらしくてね、探せば見つかるそうだよ。もっとも、その工場もそのまま残ってるわけじゃないし、
 見つけても使えるかどうかは判らない。走る車を見つけ、さらに操縦方法を知った者だけが、こうして来れるってわけさ」
そういいながら、コンテナから木箱を担いでくるアガサ。長さは1m半くらいはあるだろうか。
深さはそれほどでもないが、結構重さはあるらしい。
「オークションにかけられるものは三つ。武器と弾薬、そして車とそのパーツ。無力化した無人兵器が出されたこともあったらしいよ」
オークションにかけたい品物は、一端近くの建物へと運び込む。そして、そこで売却者名と最低金額を提示する。
後は、そこの関係者に任せるという仕組みだ。完全なる他人任せだが、損をしたという話は全くない。
トレーダーの信用を失ったら品物が来なくなるからだ。徹底したサービスと管理を行うからこそ、3ヶ月に一度、必ず開催できるのだから。

「手続きはあたし達がやっておくからさ、二人はその辺見てきたらどうだい?パークの向こう側に面白いものが見られるよ」
受け付け入り口で、アガサが声を掛ける。時間ができたら、見物に出掛けようと決めていた二人は、その言葉に甘えることにした。

「あれは……街?」
あっけに取られる二人。その光景は壮観とも壮絶とも取れるものだった。
少し離れたところから伸びた巨大な石の吊り橋。自分達側の足場は残っているものの、橋自体は半ばから折れ、水の中へと沈んでいる。
そして、その先にあるもの。
かつては「水上都市」だったのだろう。今となっては「水中都市」と呼んだ方が合っている。
地盤が水の上にあったことが幸いして、その殆どの建物は崩れずに当時のままの姿を保っている。
それが、水の中から生えているように思わせている。
見渡す限りの荒野で育った二人にとって、それは幻想的とも思える光景であった。
「こんな所に人が来るとは珍しいね」
不意に後ろから声を掛けられた。腰の銃に手を掛け、素早く振り返るクリス。そこには、ポンチョを着た男が立っていた。
帽子を被っているため髪の色は見えないが、顔に刻まれた皺は、それなりに年を経たことを現していた。
彼は両手を広げ、敵意がないことを示す。
「貴方は?」
銃から手を離したものの、油断しない口調で尋ねる。
「昔からここに済んでいた年寄りさ。暇になると、こうしてここにやってくる」
そういうと彼は、水没した都市へと視線を送る。
「あれはマンハッタン・エリアと呼ばれていた。この都市の機能は全てあそこに集約されていたのさ。大破壊の日も、あそこで働いていた人が居た」
「どうしてそれを?」
クリスは驚いた口調で尋ねる。だが、男はそれに答えず、逆に質問してきた。
「あの武装したランドクルーザーは君のものかね?」
「ええ、まぁ」
それを聞くと男は深く頷いた。そして、立ち去りながら声を掛ける。
「私の名は、ラディック・J・ブラド。兵器に興味があるなら、訪ねて来るといい」
クリスがその言葉の意味を理解するまで、しばし時間がかかった。
彼はこの街のことを詳しく知っていた。しかも、あの話し方は体験したかのようだった。そして彼は「ブラド」と名乗った。
ブラド。
かつて「ブラド・コングロマリット」という会社があったことは聞いていたし、その名が入ったラベルも見た。
何でも、世界的な大企業であらゆる分野に進出していったそうだ。
そして、言った。
(兵器に興味があるなら)
興味ならある。知識ではなく、利用するためのだ。訪ねて来いというのは、何か話してくれるということだろうか?
もっと強力な武器か、あるいは見たことも無いようなものについて。人類の転機になるようなことを知っているかもしれない!
そう思い至り男の姿を探したが、既にその姿は見えなくなっていた。



琥月の感想

アルベルトさんからの投稿で、第4話 火薬とオイルの即興曲、前半が送られてきました。
順調に旅を続けるクリス達。
今回クリス達がたどり着いたのはアトランティス・シティ、元はニューヨークと呼ばれた町。
そして水中に沈んだ町を眺めているクリスに話し掛けてきた男、ラディック・J・ブラド。
ブラドはあのブラドでしょうし、この男がクリス達にどう関わってくるのか。
兵器に興味があるならという言葉にどんな意味が含まれているのか。
続きはCMの後でっ!!(ぉ
次も楽しみにしてますよ♪(^^;

アルベルトさんありがとうございました。m(_ _)m

あと、これの文章は手直ししています。
僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。
アルベルトさんも、これはこうしてほしいなどの意見があればくださいな。

アルベルトさんへの感想はこちらです
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