メタルマックス・ロスト=ストーリー
ただ、生き延びる為に…
―第一章―
…揚陸艇で島を出てから一月…。
マイトの旅は新たなる展開を見せようとしている。
「おい…もう金目の物は持ってねぇのか?」
「…みたいですね。…おい、小僧…ここに大人しく入ってな!!」
…。
…ガチャン!
無機質同士の擦れる音と主に錆付いた鉄格子が閉まり、カギがかけられる。
…ここは荒野のど真ん中…その地下にある遺跡の内部…。
かつて何かの倉庫であったろうそこは今…盗賊のアジトになっていた。
…無論、今押し込まれたのは、我らが主人公マイト君である…。
「…まさか本当に盗賊団なんて物に遭遇しちゃうとはね…はぁ…。」
すっかり意気消沈し、体育座りで背後に闇を背負っているその姿は情けないの一言。
更に情け無い話だが、パンクしたタイヤを取り替えているうちにすっかり囲まれてしまったらしい。
「ひゃっほぉ!…これで俺らもクルマ持ちだぜ!」
「げへへ、カモ万歳!!」
「しかし何処のお坊ちゃんなんだぁ?…あんだけの物資…ラッキーだぜ!」
…遥か彼方から響いてくる盗賊どもの声が、情けなさを倍増させる…。
「くそっ…僕をどうするつもりだっ!?」
「知りてぇか小僧!!」
…ドンっ!
大柄な男がマイトの視界を塞ぐ。
「な…誰ですか!?」
「俺様はこの盗賊団を率いるドン様だぁ!」
…一見贅肉だらけのその体…だが、その筋肉含有率は関取に匹敵する程に高い。
しかも、その上半身には機関銃の弾丸がジャラジャラと…まるで装飾品のように踊っている。
…頭部はモヒカン。肌は浅黒い。
…とは言え、問題なのはそんな事ではない。
「ここの…ボス?」
「そう、名前はドン様よ。…で、だ…小僧、お前の今後だが…死にてぇか?」
にやり。
ドンと名乗る男は値踏みするようにマイトを見る。
「い、嫌だ…!」
「だろうな…じゃあ両親に連絡取れや。…身代金…そうだな一万G出すなら返してやるってよ。」
むしりとれる場所からはむしりとる。当然の行動だろう。
…とは言うものの、この手の輩はきっと約束を守らない。
それに…救いを求めるべき両親など、彼にはもう居なかった。
だから…せめて正直に言う事にする。
「…捕まった時持ってたものは死んだ両親の遺産。…親など居ないよ。」
「…ほぉ。」
…一瞬、利用価値が無くなって殺されるか…とも思ったが、ドンは意外な言葉を発した。
「…ちっ、確かに親の遺産全部だってならアレにも納得だな…しょうがねぇ…来い。」
「ど、何処に。」
…ドス…ドス
重い体の割りに素早く歩きながら、ドンは後ろを軽く振り向いて言った。
「働かざる物食うべからず…死にたくなけりゃあ仕事、手伝いな。」
「僕にも盗賊になれって言うのか?」
…ぺっ
唾を吐き捨てながらドンは指で鼻を拭った。
「アホ。…2〜3年してほとぼり冷めたらどっかの町で開放してやるさ。…それまで我慢しろや。」
「…2〜3年…ですか…。」
…こうして、マイトは盗賊団の小間使いにされてしまったのである…。
…。
…時が過ぎるのは以外に早い。…忙しい時間をすごしているなら尚更…。
マイトがここに来てから、何だかんだで2ヶ月ほどが経過していた。
「おい、小僧…向こうにこの樽を運ぶんだ。」
「は、はい!」
…彼は何とか生き延びていた。
まだ地下から抜け出す事は許されていないが、それ以外なら自由に動き回れる位信用も掴んでいる。
「…次は戦利品の勘定。…幾らある?」
「えー…火炎瓶が2本に…これは…シャーペンかな?」
「…馬鹿、コイツはペンシルミサイル。…結構火力が高い、扱いは気ィ付けな。」
「あ、はい。」
そして冷凍睡眠で落ちた体力も時と共に段々と回復し、
何気なく聞きだした話からこの世界の常識も一部だが理解し始めている。
…だが。
「ぐっ!?」
ある日…マイトの全身に、突然激痛が走った。
そう…遂に来た…持病の発作だ!!
「おい?…ああっ、小僧がぶっ倒れたぞ!?」
「何させたんだ?…とにかく回復カプセル飲ませろ!…急げ!!」
…ごく。
「…グ…ぁあああああっ!?」
「いいっ!?…何か痙攣してるぞ!?」
「のけぞってる!マズイ…医務室だ!…ロレンツに見せろ!!」
…そもそも、彼の病魔は『先天性対極小機械超過免疫症候群』と言い、
先天的にナノマシンを受け付けない体質なのだ。
体質がナノマシンと合わない人間に、むりやり回復カプセルを投与すればどうなるか…。
…異物を排除しようとする体と、そうはさせまいとするナノマシンの間で戦闘が起き、
それの余波は、耐えがたき激痛として本人に伝わる。
更に症状が進めば肉体…特に、内部にあり細く繊細な神経系統が寸断されるほどになるだろう。
…即ち『死に至る病』なのだ。
「だ、大丈夫です…薬、効いてきましたから…。」
「誰が信じるか!…いいから休んでろ馬鹿!!」
…医務室に運び込まれかけたマイトの一言。…これはあながち嘘ではない。
回復カプセルには微量のオイホロトキシンが含まれる。
…これは痛覚を麻痺させ…しかも運動能力を落とす事が無いという夢のような薬だ。
かつて万能麻酔薬として開発されたそれは微量でも相当の効力を発揮し、
マイトの体から痛みを取り除いたのだ。
(…とは言え、少しは進行しちゃったかな…。)
…とは言え、免疫と言う物は前回来た異物がまた来れば攻撃を強化する…という性質がある。
これは同じ病にかからない為には当然の反応なのだが、この場合…症状の進行を示してしまう。
「ほらよ、さっさと診察受けて今日は寝てな!…明日は今日の分までやるんだぞ!」
「あっ!」
…ドン!
マイトは医務室に蹴りこまれた。
(アレがあの人たちなりの優しさなんだろうけど…。)
とは言え、蹴られた背中が痛いことには変わりない。
…まあ、ここまで来たのだからと診察を受ける事にした。
「…とはいえ、ここまで来たのは初めてだな…。」
「…普通は、回復カプセルで済ますから。」
…はっ!
振り向くと、粗末な椅子に座る小柄な影。
「もしかして…君がロレンツ先生?」
「…そう。」
…目の前に座る人間は…どう見てもマイトより年下かつ小柄だ。
しかも、そのくせ声は押し殺したように低い。…年齢不相応に。
「…ホントに?」
「…。(こくり)」
…確認してみると、相手はゆっくりと頷いた。
それに、部屋の中には医学書が所狭しと並んでいる。…本当にそうなのかもしれない。
だが、大きすぎるベレー帽を深々と被り、来ているのはだぶだぶのツナギ。
しかも、薄汚れた白衣もロレンツには大きめ…。
それが、更に幼い様子を強調してしまっている。
…マイトが不安になったのも頷けると言う物だ。
…。
とは言え、向こうは本気のようで。
「…胸出して。」
「あ、はい。」
…トン…トン…
手袋をはめたままの手で、起用に聴診器をあてていく。
…その動きを見て、マイトは悟った。
(…知識だけは本物…けど…我流だ)
…彼自身医者の卵だった。…少しは感じる物があったのだろう。
だが、何にせよ相手にきちんとした知識があるのはありがたい。
「…ん………?」
「あ、あの…何か異常でも?」
…すると、ロレンツは突然立ち上がり…注射器を持ってくる。
「我慢して。」
「…は…グォァッ!?」
…ドタッ…ゴロゴロゴロゴロ!!!
注射針から何かが体内に入った途端、全身をさっきとは比べ物にならないほどの苦痛が襲う!
「が、ガアアアアアアアアッ!?」
「…まさか…とは思ったけど。」
そして、のた打ち回るマイトを尻目に別な注射器を用意する。
…だが、焦っているのか手元が少々危ない。
額には脂汗。それにチラチラとマイトの様子を伺ったりもして、時間は過ぎるばかり。
「うぐ!…あぐぁ…ギャアアアアアアアアッ!!?」
「我慢…もう少し…!」
…マイトの意識は白い霧の中に消えていく。
…最後に見た物は何か注射を打ち込もうと、暴れるマイトに覆い被さるロレンツの姿だった…。
…。
かっちっこっちっ…
時計の針だけが音を発する静寂の中にある室内。
「…先天性対極小機械超過免疫症候群…。」
…うなされるマイトのベッドに付き添って、あちこち包帯を巻いたロレンツがポツリと呟いた。
そして、マイトの額に乗った濡れタオルを取り替える。
…ロレンツがふと、横を見た。
…そこには先ほどマイトに打ち込んだ2種類の注射器が、ゴミとして捨てられている。
一つは構造が単純な、とある種類の医療用ナノマシン。
そしてもう一つは…それを殺すための薬品である。
「…まさか…こんな所に…ね。」
…そして、ロレンツは顎に指を当てて考え込む。
「とは言え…あの病魔の治療法を見つけるのは私の夢でもある。…けど、この盗賊団にいる限りその望みが叶う事は無いだろうし…。」
そもそもロレンツ自身、望んでここにいる訳ではなかった。
…捕まった際、医療の知識を見込まれここに半ば軟禁されているのだ。
「…彼に残された時間も恐らく余り無い。」
ロレンツは、再びマイトを見る。
そして、何か決意したのかふう…と嘆息し、ひとりごちた。
「…彼を手伝った方が…トクかな…。」
無論、その言葉はマイトにも…勿論他の盗賊達にも届かない。
…そしてまた何事も無かったかのように、うなされるマイトのタオルを代えてやるのだった…。
―続く―
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