メタルマックス・ロスト=ストーリー
ただ、生き延びる為に…
―第二章―
マイトが盗賊に囚われここに来てからおよそ3ヶ月。
その日も、何時もと変わらない一日の筈だった。
何時ものように働き、何時ものように暮らし…そして何時ものように自分の現状を嘆く…。
そんな…何時の間にか当たり前となっていた一日が過ぎ去る筈だ…と、思っていた。
「火が…弾薬庫に回ったぞ―――ッ!!」
「ちぃっ!…食糧庫はもう全滅だ…。」
「だめだぁっ!!…このままじゃあ煙に巻かれちまう!!」
けれど今地中深く…かつて地下倉庫だったと思われる空洞を利用して出来た盗賊たちのアジトは、紅蓮の業火と熱気を放つ黒煙に覆われている。
そして…マイトはそんな中、一人呆然と立ち尽くしていた…。
…。
「何があったんだ…。」
「…ハンターが来た。」
…びくりっ…として背後を振り向くマイト。
するとそこには何時の間に回りこんだのか、白衣姿の小さな影…。
「ロレンツ…?」
「…こっち。」
…さっ…と手を振りそのまま回れ右するロレンツ。
「え?」
「…残るの?」
顔だけ振り向いてそう言うと、ロレンツは状況の飲み込め切れていないマイトを置いて走り出す。
…つまり、付いて来いと言う事だ。
「…あ、待って…。」
「…。」
…考える間もなく、マイトもロレンツを追った。
…。
「うぁあああああっ!!」
「ぎゃああああぅ!!」
…聞き覚えのある声が、遥か後方から絶叫として聞こえてくる。
だが恐らくそれは…断末魔なのだろう…。
「…うげっ…。」
知り合いの顔を思い出し…その死に際を思い描いてしまい、思わず吐き気を催す…。
…例えこき使われていた相手だと言っても…やはり…こたえるものがあったのだろう。
「…無事?」
「あ、ああ…大丈夫…。」
よろめいて倒れ掛かったマイトを心配したか、ロレンツが顔を覗き込んできた。
…そこでふと…マイトはロレンツに根本的な疑問をぶつける。
「それにしても…ハンターって、何?」
「…!?」
…ロレンツは目を見開き…そのまま固まる。
長い前髪のせいで顔の上半分が殆ど隠れてしまっているのに判るのだから相当の物だ。
「…あ、あの…。」
「…判らない?」
信じられない…とでも言わんばかりにとっとっと…と後ろに2〜3歩後ずさる。
…だがまあ、仕方ない事だろう。
この世界において、ハンターとはトレーダーと並ぶ絶対的な名称だ。
…知らないと言う事などあり得無いのだから…。
「…取り合えず…誰かは…判らない。」
…ロレンツは暫く固まったまま考え込んで…そして、自分で納得できる答えを発した。
いや、何とか納得できる形での解釈をしたというほうが正しい。
ハンターと言う単語を知らないわけが無い…だとしたら、先ほどの質問は固有名詞を聞いたのだ。
そして、自分は相手の名も、どんな奴なのかも知らない…。
すると答えは…相手が誰かは知らない、判らない…となる。
…もっとも、マイトの質問はハンターと言う存在そのものについてである。
勿論、ロレンツの答えで何なのか判ったわけが無い…が、一つだけ確実だと悟った事があった。
(これは…ハンターってモノの事は…知ってる事にしないとマズイみたいだな…。)
…これは、相手の反応を見れば当然の事であろう。
少なくとも、"ハンター"と言う単語はこの世界において一般常識以前の問題なのだから。
だが、その判断は彼の今後に大きな影響を与える事になる…。
…。
気を取り直したロレンツの後を追い辿り着いた先は…アジトの裏口に当たる場所。
…しかも、彼の目の前には…。
「…あ、僕のクルマ…。」
「…行く?」
…ちゃらっ
ロレンツの手には、バンの鍵が握られている。
「それは…。」
「…借りた。」
無断である事は間違いない。が、何にせよこれはチャンスだ。
自分の車を取り戻し、旅に戻る事が出来る筈…。
「…でも、良いのかい?…ばれたら君も…。」
「…そっちがやった事にする。」
…にまっ…とロレンツが笑った。
「…有難う…。」
「…じゃ、積み込み。」
感謝の言葉を言うマイト…が、ロレンツは関係無いとでもいいたげに荷物を積み込み始める。
それは、感謝されるいわれは無いと言うロレンツなりの意思表示…だったのかも知れない。
…。
「…何とか積み込みも終わったな…。」
「……ん。」
マイトが最後の荷物を載せ、後部のドアを閉めた。
これで何時でも出発が出来る。
そしてロレンツは助手席に座って地図を広げている。
…が、マイトの積み込み終了と言う声に反応し顔をあげ…固まった。
「…こ、れ…。」
「…え?え?」
…運転席に近寄ってきたマイトに、ロレンツは横に立てかけてあった棒のような物を押し付ける。
何故か震える声で…。
「ショットガン?」
「…頑張って。」
…ブルン…。
「え?」
「…あっちが…町…。」
…問い詰める暇も、余裕も無かった。
バンの白い車体は排気音を響かせながら洞窟の外に走り出て行ってしまう…。
「な…なんで?…なんで?…ちょ…僕のクルマッ!!」
「置いてけぼりか、小僧?」
…ポン。
野太い声が洞窟内に響き、太い腕がマイトの肩を叩く。
「……………!!」
ザザーッ…と本能的に前方にジャンプしたマイト!
その後頭部数センチ先を斧の切っ先が掠める…!
「…ど、ドン!?」
「ふん!…俺様がけちな賞金稼ぎにやられたとでも思ったか?」
…だがその上半身を装飾品のように踊っていた機関銃の弾丸は既に無く、体中に火傷や銃痩がある。
右腕にボウガンを構え…左腕には斧を握り締めているが、既にボウガンの矢は尽きているようだ。
「でも、満身創痍じゃないですか…。」
「…はん、人の心配してる暇があったら自分の命を心配しな。」
「…あ…。」
「よくも俺様のクルマを盗み出しやがったな?」
…あれはロレンツが…とでも言いたいが、とてもそんな言い訳が通用する状況ではない。
しかもその怒りの矛先は、目の前の自分に注がれている…。
…背後は壁…逃げ場は無い。
その事実を認識したマイトは、絶望の余りガクリと膝を付いてしまう。
「…ち、ちがうんだ…あ、あれは…。」
「うるせぇ、せっかく生かしといてやったのに…恩知らずがぁっ!!」
…やはり盗賊、命乞いなど通用する相手ではない。
ドンの巨体が迫る…その右腕の"ジェロニモの斧"を振りかぶり凄まじい勢いで迫って…!!
…ドムッ!!
「うがっ?」
「…へ…?」
…だら…だらだら…。
ドンの背中から…大量の血が流れ落ちる。
「何が…一体何が…?」
…すっ…とマイトが辺りを見回す…。
すると…自分達がこの部屋に入るときに使った通路に誰かが居た。
「よぉ盗賊、賞金250Gはこの俺が頂くぜ?。」
「ぐぁ…ハンター野郎!…てめぇ、もう追いつきやがったのか…。」
ちっちっち…男は指を鳴らした。
暗がりになっているのでその姿は良く見えないが、そんな態度には余裕すら感じられる。
「違うな、俺はソルジャー…戦車なんぞには頼らねぇのさ!」
「けっ…ただの木っ端賞金稼ぎの分際で…!」
酷く緩慢な動きで後ろを振り向きながらドンが威圧的に言う。
だが…マイトからは見えないが、その背中は骨格までも露出していて…致命傷を負っている。
(…い、今だっ!!)
…もう、迷っている時間は無かった。このチャンスを生かせねば次はあるまい…。
マイトは全身の筋肉をあらん限りの力で躍動させ、その場からの脱出を図る。
「うう…ああっ、小僧逃げるな!!」
「お前もな。…お前を倒さないと賞金が出ねぇし、ここらで終わらそうぜ!!」
だが、走り出した方向は出口とは逆…出口は丁度ドンが塞ぐような格好になっている。
…背後で銃声が轟く中…マイトは奥へ…奥へと走り出した…。
…。
はぁ…はぁ…はぁ…。
どれだけ走ったか…もう時間の感覚が無い。…これだけ走ったのは目覚めたあの日以来だろうか?
マイトは電灯すら落ち、赤い非常灯のみで照らされた地下区画の隅に座り込んでいた。
…時折ひび割れや障害物に足を取られて転んだせいで体中はボロボロ…。
だが、走り続けたお陰で相当の距離は稼げた。…これで暫く隠れていれば…、
…等と、楽観的な考えが浮かび始める。
とは言え彼は忘れていた。
…ここが、彼らの…盗賊のアジト内部であると言う事実を…!
「みぃつけたぁっ!」
「なっ!?」
…ドシィィィン!…と轟音を轟かせ、血まみれの巨体が落下してくる。
既に致死量を超える血液が流れ出ている筈だが、いまだその生命活動は停止しては居ない…!
「…なんで…あれだけ時間が…走り続けたのに…。」
「自分家の造りぐらい…覚えとくもんだ…俺は…真っ直ぐ下に…下りてきた…だ、け…。」
辛そうに時折咳き込みながら、ドンは退路を断つかのように今来た道に立ちふさがる。
…これでは先に進むしか手が無い…。
…少しばかり視点の定まらなくなってきた
「…ドン…。」
「ひとつ…選ばせて…やらぁ。…この先にはな。…俺も解除できなかったセキュリティが…ある。」
「…貴方なら…破壊するように思えるけど…。」
「くっくっく…まあ、いきゃあ…わかる。…因みに、いかねぇなら俺が殺してやらぁ。」
…ブン…と風を切る音が響き、既に刃こぼれの酷い斧が振り下ろされた。
死にかけている彼ではあるが、その腕力はマイトを殺すにはまだまだ十分すぎた。
「…行くしか…無いみたいだな…。」
…じりじりと距離を詰めつつあるドンに追いつかれる事は死を意味する。
この先に何があるかは判らないが…マイトは疲れきった体を必死に動かし奥へと進む…。
先ほどから数十メートルほど先に見えていた曲がり角。
…マイトはその先に走りこみ…固まった。
…。
「何だよここは…。」
…そこはまさに…地獄だった。
幾重にも折り重なった死体の山、山、山…。
いまだ健在なそのセキュリティシステムが、侵入者を排除してきた結果である。
曲がり角から十数メートルまでは血の跡しかない。だがその向こう側には白骨化した遺体が転がり、更にその先には破壊されたガンホールが無残な姿を晒している。
…そして…その先に見えるのは腐乱死体。…しかも、様子から察するに傷ついた味方を助けようとしてレーザーに背中から撃たれたようだ。
そしてその先には体の4分の1が無くなった、比較的新しい死体が転がっていた…。
「一体…ここで何が…?」
「くくく…見たか小僧?…ひでぇモンだろう?」
背後からドンの声が聞こえる。
この声の大きさから察するに、まだまだ遠くに居るようだ。
「…俺たちは10年ほど前にここに来た。…戦車があるって噂を聞いてな。」
「この奥に?」
「そうだ。…そしてある日、いきなりとんでもないセキュリティにぶち当たったのさ。」
「それがこれ?」
「当初は喜んだもんだ。…お宝はきっとこの奥だ…ってな。…でもな、甘かったのさ。」
…そう、突破できなければ意味などなかった。
彼らはこのセキュリティに阻まれた。…けれど決して諦めたりはしなかったのだ。
それ自体は賞賛に値する事だろう。
だが何時しか資金も底を尽き…ついには盗賊にまで落ちぶれていったのだ…。
「…俺にも昔は夢があった。…戦車乗りまわすハンターになるってな。…でもよ、気付いたら…。」
…ゼェゼェと言う、苦しげな呼吸音が聞こえ始めた。
距離が狭まっている。…ここに居ては危ない…!
「…何時の間にか追われる側だ…ざまあねぇ…よなぁ…?」
「そ、それと僕がどう関係?」
「…ただ殺すんじゃ俺様の腹の虫が納まらねぇ…恐怖の中で死んでもらう。」
「そんな!」
「さぁ…後3分くらいで追いつくぞ?…セキュリティに殺されるか、俺に殺されるか…選べ!!」
「クソォッ!!」
…迷っている暇は無かった。マイトは自棄を起こしたように走り出す…。
彼の視界には、監視カメラが下りてくる様子が妙にスローペースで細切れに写っていた…。
『警告・この先は関係者以外立ち入り禁止です』
「知ってるよそのくらい…!!」
視界の先にシャッターが見える。…このまま走っていけば、セキュリティが勝手に蜂の巣にしてくれるだろう。
せめてこれ以上苦しまずに…それが彼の決断であった…。
『当方に迎撃の用意あり。ブラドコングロマリットのIDを持たない場合は直ちに引き返して…』
「…何ッ!?」
…マイトはセキュリティの警告文の中にあったある単語を聞き逃さなかった。
そっと周囲を見渡し、横にある駐車場のパーキングメーターのような物を確認すると…走り寄る!
「…まさか…まさかまさかまさか…!!」
…そっと指先をコンソールに走らせ…最後に親指を画面中央に押し当てる…。
自分の持つIDの優先度は高い。指紋照合が可能なら…この先に行く事が出来る筈…!
数秒の間の後…すーっと…音もせず開いたシャッターに彼は飛び込む。
…迫り来る"死"から逃れる為に…。
それから数分後…彼は聞いた。
分厚いシャッターの向こう側で凄まじい銃声が響き、男の絶叫が聞こえるのを…。
…。
暗い倉庫の中…まだ彼は震えている。
…その背後に鎮座する"それ"に気付くには、まだ暫しの時が必要であった…。
― 続く ―
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