メタルマックス・ロスト=ストーリー

ただ、生き延びる為に…


―第三章―





…ぜーっ…ぜーっ…。


荒い息遣いが、暗闇の中で反響する…。

ここは地下深く…大破壊以前の倉庫の中。


マイトは生きるか死ぬかの境目で、ようやくここに辿り着いた。

僅かに落ち着いたところでシャッターに耳を付け、外の様子を探るが特に反応は無い。



「助かった…のか…?」



それほど広くない倉庫の中に己の声が木霊する中、彼はようやく周囲を見渡す余裕を取り戻す。

…幸い、近くにあったスイッチで電灯が灯る。まだ電源が生きていたのだ。


…倉庫はカラに近い状態で、床には厚く埃が溜まっている。

端の方には木箱やドラム缶が散乱し、その殆どは中身が無い状態であった。


足元には僅かな銃器…弾丸も散乱したままのそれは、何か緊急事態がここに起きたことを示し、

逆に堅固であった防衛システムは、この場所が何か重要な拠点であった事を雄弁に語る。



…そしてその中央には、ビニールシートを被った巨大な"何か"が鎮座していた…。



…。



「…これは…?」



そんな事を言いながら、彼は部屋の中央に鎮座した一際目立つ"それ"に向かった。

…軽く埃を払いのけた後、一気にビニールシートを引き剥がす…。



…。


「…戦…車…?」


ばさり、と彼はビニールシートを取り落とす。

それはまさに…壮観。



重厚な戦闘車両…それも完全な原形を保ったままの"戦車"がそこにはあった。



塗装すらされていないその車体は、恐らく製作当時のまま…傷一つ無い。

旋回砲塔の先には88mm戦車砲…更に上部ハッチの脇には9mm機銃が鈍い光を放つ。


旋回砲塔側面の両側にはATMミサイルが一基づつ。

更に、上部装甲後部にハッチのような物が付いている…。



「…ウルフ?」



思わず、ブラド・コングロマリットの誇る主力戦車の名が脳裏に浮かぶ。

…だがそれにしてはシルエットがあまりに違う。


第一、ウルフの砲塔側面にミサイルなどは付いていない筈…。




「カタログのウルフより背が高いような。…違うのか…?」




好奇心の赴くまま上によじ登り、上部ハッチを開けて中にもぐりこむ。

そのまま…操縦席に座ってみると…目の前が突然明るくなった。



「ん?な、何だ!?」

『操縦者の搭乗を確認…DNAデータ登録を行います』



…。



…チクッ


眼前のモニターが点等したと思った次の瞬間、

突然伸びて来た小型マニピュレータが首筋にアンプルを突き立てる。



抵抗する暇どころか、事態を認識する暇も無かった。



「イタッ…いきなりなんなんだ…?」

『確認終了。マスター登録はこれで終了です。以降はマスター以外の搭乗は出来ないのでご注意ください。』


…理由は判らないが、取り合えずこのクルマは彼を主人としたようである。


突然の事に困惑する彼。だがそんな彼の困惑を吹き飛ばさんとするが如く、

車内のスピーカーから突然、老人風のダミ声が流れ出す。


『この放送を聞いていると言う事は、誰かがこの車を手にしたという事だろう…。』

「…だ、誰だ!?」


『ワシはこれを製作した技術者の一人。…恐らくコレが誰かの手に渡る頃には、もうワシはこの世におらん。』


…製作者からのメッセージ…驚きながらもマイトは取り合えず先を待つ。


『…我らが総帥、バイアス・ブラド博士は変わってしまった。万一自分が死んだ折には人類そのものを滅ぼせとまで仰られる事もある。…最早正気ではあるまい…。』


「会長が…まさか?」



…彼が生まれた時代、バイアス・ブラド博士といえば時の人であった。

若き天才科学者にして稀代の実業家…その名を欲しいままにしていたのである。


後に彼が政治家になり、科学で環境破壊を解決すると言い始め…、

そして、不治の病に倒れた事を彼は知る由も無い。



『最近の会長は自分の延命にのみ執着してる。…もう付いていけない。この戦車の開発中止が決定されたのも、そちらの研究に資材を回す為だと言う。…しかも…、』


そっとマイトは周囲を見回す。…確かにあちこち、無意味に空間が開いている。

本来あるべきパーツが装備されていない証拠だ…。



…と、その瞬間…テープの声が焦りを帯びたものに変わった!



『今、仲間から連絡が入った。…会長は人を辞めてしまったようだ。しかもワシらの行動は造反と判断されている。もう時間が無い。ワシはこの子を取り合えず必要最低限動くようにしておく。』


…テープに僅かな雑音が混ざる。追っ手が来ているのだろうか?


『完成させる為のパーツは各地の仲間達が秘匿している筈だ。…隠し倉庫を探し出し、このメインコントロールユニットに格納されている解除キーを打ち込むべし。』


…雑音の中に人の声が混じる。早く逃げろと叫んでいた。

その後、すぐ傍で突然キャタピラの音が響き…段々と小さくなっていく…。


恐らくこの部屋にあった戦車が出て行ったのだろう。

…きっと、この部屋がガランとしていたのもそれが原因に違いない…。


『…最早助かるまい。…ここを隠しとおす為、わしらは無謀な戦いに挑もう。…この子を頼む。』


…ぶつり…と、そこでテープは切れた。

マイトはふと、操縦席の上に古びたメモが貼り付けられている事に気付く。





『もはやこれは狼(ウルフ)ではない。地獄の番犬"ガルム"と呼ぶがいい。』





…彼はこの戦車を残した人たちの真意を掴みかねていた。

それに、万一カタキを取ってくれと言う事だとしても…

彼にはその気どころか、この世界において"戦車に乗る"事の意味さえ理解していない。



「…とりあえず…有難く貰ってくかな…何かの役には立つだろうし…。」



それは、余りに軽い気持ちであった。

…彼自身は意識していないが、この時代に生きる者達からしてみれば、

そんな考えはまさしく冒涜であろう。



「…ん?…部屋の奥に表へ直通のエレベータ…。」



…彼は、車体を走らせる。

エレベータが動き出し地上へ向かう間、僅かに揺れる車内で彼は今後について考えていた。



「…とにかく、ロレンツを追って車を返してもらおう。…コイツは…その後で売っても良いか…。」



凄まじい楽観論。…しかも普通のハンター志望者が聞いたら失神しかねない内容だ。

だが、この時点での彼はそれで全て上手く行くと信じていた。



…ほんの、数十分ほどの間は…だが。




…。




…久々に拝む太陽…。

彼は自由と言う物のありがたみを噛み締めながら、クルマを町のあると言う方角に走らせていた。



「…順調、順調…。」



…燃料計を見ながら彼は言う。これなら2週間は補給無しで進めそうだった。

幸いこれの作られた時代には操縦機構が簡略化されていたため、彼でも問題なく動かす事が出来る。



が…その時…メインカメラからの映像が、突然真っ暗になった。



「な、何だぁッ!?」

『おい、そろそろ気づいてくれよ!』


…集音マイクから、野太い声が聞こえてくる。

暗くなったのも、良く見ると誰かがメインカメラを覗き込んでいるからのようだ。



「…そ、走行中のクルマに飛び乗らないで下さい…。」

『お、気付いたな…ちょーっと話があるんだがよ?』



…慌ててスピーカーで呼びかけるが、相手は自分のペースを崩さない。

マイトは仕方なく車を止めると上部ハッチを開け、表に体を乗り出した…。



…。



「よお!…悪いな、呼び止めちまってよ。」

「は、はあ…。」



…上に飛び乗ってきていたのは屈強な男。


黒い肌に短い髪。…森林迷彩のズボンを履き、上は黒のTシャツを着ていた。

…背中に担いでいるのはスティンガーミサイルだろうか?


見るからに豪快そうなその男は片腕でSMGウージーを抱えながら、

よっ…ともう片方の手を上げて挨拶をしてきた。


…。


「…え、っと…何の用でしょうか…?」

「おう、あんた…そんなごつい戦車に乗ってんならハンターなんだろ?」


…いきなり、数時間前に覚えたばかりの"ハンター"なる単語。

知らないと言うのも問題そうだし、どうやらハンターとは戦車乗りと言う意味合いらしい…。


マイトは答えに窮し、とりあえず適当に相槌をうつ事にした。



「ま、まあね。…なったばかりだけどさ。」

「ほ、やっぱしヒヨッコか。けど…その割りに装備は良さそうだな。」


…マイトは浮かび上がりそうになる冷や汗を必死に押さえる。

ここで弱みを見せれば、またろくでもない事になる…という考えに支配されていたのだ。



だが、この場合それは大失敗であった。



「よぉーし、ヒヨッコなら派手に名前を売りたいだろう?…おじさんに良い考えがあるんだが。」

「…え。」


…冷や汗が背中を流れ落ちる。

なにか…とんでもない地雷を踏みつけてしまったような錯覚に襲われる…が、時既に遅し。


「…いいかボウズ。…この近くに賞金首が居る。」

「…げっ!?」


賞金首、そう聞いた途端…マイトの脳裏に暴れ回るドンの姿がフラッシュバックした。

…思わず腰が引ける。


「何が"げっ"だ…ハンターなら賞金首刈り取って何ぼだろ?」

「…い、いや僕は…その、コツコツ稼ぐ気なんで…。」


…これ以上ここに居たらとんでもない事に巻き込まれる…。

そんな確信を持ち、マイトは戦車をぐるりとUターンさせる。



…だが、その瞬間…彼は固まった。





「…なんだよ、あれ。」

「見てわかんないか?トレーダーのキャラバンだ。」






彼は道無き荒野を一直線に突き進んでいた筈だった。

だが、気付いてみると彼の後方1kmほどの所を十数台程のトラックが追従している。



「なんで…?」

「そんなごつい戦車だからな。…この辺は雑魚ばかりだから向こうが隠れちまってる。」


「…は?」

「わかんねぇ奴だな…連中の場合、お前の後をついてけば安全だって事だ。」



…思わず周囲を見渡すと、ダチョウか何かのような生き物が草陰に居た。

するとこちらの視線に驚いたのか、その場からわたわたと逃げ出していく…。



「…えーと…。」



…彼が呆然とキャラバンを眺めていると、その内にキャラバンのトラックが追いついてきた。

彼のクルマの後方10mほどのところで停止したトラック。そこから一人の老人が歩み出る。



「ジムさんよ…そこのお若いのとの交渉は上手く行ったかの?」

「おう、マゼラン爺さん…なーんか色よい返事が来ないんだよなぁ。…後は任せる!」



…すたっ…と上から飛び降りた男…ジムは、トラックの横に出来た日陰に飛び込む。

そして、代わりにマゼランと呼ばれた老人が戦車の横までやってきて、深々と頭を下げた。


蓄えられた顎鬚と白い眉。

顔中に刻まれた皺と細い目の奥にキッと光る眼光が、彼の人生の重みを感じさせる。

…恐らく、トレーダー・キャラバンのリーダーなのだろう。



「お若いの。…あんたのお陰で今日のわしらは安全そのものじゃった。…礼を言わせて貰うよ。」

「い、いえ…。」


老人の言葉はゆったりとした物だった。

だが、マイトはその奥に感じる威厳…とでも言うべき物に押され、言葉が出てこない。


しかし、そんな彼の態度に気付いたのかどうなのか?…老人は構わず言葉を続ける。



「…ところで…だ、あんたは気付いて居るかの?」

「なにをです?」


「…はぁ…レーダーがついておらんのか?」

「え?」


呆れたようにため息をつく老人。

…マイト自身、広域レーダーは見ていなかったので返す言葉も無い。


「…あーあ、爺さん。…やっぱもう少し経ってから言った方が良かったんじゃないのか?」

「ジムさん。心にも無い事を言うでない。…わしもアンタもそう言う卑怯な事は好まんだろ?」


日陰で銃器の手入れをしながら、ジムがそんな事を言う。

老人も、事も無げに言い返すが…何か様子が変だ。


「え、あ、あの…?」

「…ほれ、使われよ…北の方角じゃ。」


混乱するマイトに、老人は双眼鏡を投げて寄越した。

…北の方を覗き込むマイト。




「…土煙?」

「ただの土煙ではない。…あれは、サルモネラ一家じゃ!」



…マイトの脳裏には?マークが大量に浮かんでいた。

確かに良く見るとサルの大群がこちらに向かっている。…だが、それがどうしたと言うのか?



…知らないということは、ある意味で幸せだと言える一例であった。



「普通連中は洞窟の中に居るもんだ…それが群れで…しかも一直線に突き進んできやがる…。」

「1000G…賞金首では最弱の部類に入るの。…じゃが、ワシらでは勝てっこない。」


「おいおい爺さん…俺が取り逃がしたのは250Gの奴なんだぜ?」

「ふぉふぉふぉ…そうじゃったの…。」


…賞金額250G。そのフレーズをマイトは聞き覚えがあった。

そう、確かドンに掛かった額が…。


…そう、先ほどのソルジャーがこのジムと言う豪快な男だったのである。



だが、そうするとジムはマイトにとって命の恩人という事になる。

…気になった彼はジムに質問を投げかけた。


「お、おじさんは行くの…?」

「おうよ。ここで護衛代を稼いでおかないと、おまんまの食い上げだからな。」


…とは言え、言った瞬間に豪快な笑顔が曇った。

サルモネラ一家は強いモンスターではないものの、この場合その数が脅威であった。


彼らの北から迫る群れには200〜300頭は居るだろうか?

それらが一斉に暴走しつつ、こちらに向かっている…。


「…僕はどうすれば…。」

「お若いの。」


…びくっ…。


思わず体が強張る。逃げたいなどと言ったら…責められるかと思った。

だが、老人は顔をほころばせてこう言ったのだ。



「やはり恐ろしいのだな。…ならば早く逃げるべきじゃ。」

「…あなた、達は…?」


以外な答えに、マイトは思わず聞き返した。



「商品満載のトラックじゃあ、とても逃げ切れぬ。…無茶を承知で戦うさ…。」

「ま、ホントは手伝って欲しかったけどな。」



…もう少し経ってから…というのはこの事だったのだ。


時がもう少し経てば、どう足掻いても逃げられなくなる。

確かにそうなれば協力しない訳には行かなかったろう。




だが、彼らはそれを良しとしなかった。




…ならば自分はどうすればよいのか?

単純に言えば、彼らと共に戦うのが一番正しいだろう。


だが、事はそう簡単ではあるまい。

第一、勝てる見込みがある訳ではないのだ。



…もし負けたらどうなる?



あのサル達の手には、バーナーが握られていた。…それで焼き殺されるのか?

もしくは無数の足に踏み潰されてミンチと化すか?



…なら逃げたとしたら?



…彼らは死んでしまうだろう。自分は彼らを見捨てるのだから。

とは言え、出会ったばかりの人間…どうという事は無い。






























…本当にそうか?





























…きゃーきゃー…。


マイトは思考の海から引き戻される。一瞬…サル達がここまでもう来たのかと怯えた。

が、それはキャラバンに参加していた子供達…。


「戦車だ戦車だ!!…すげぇ、ほんとにすげえよ!」
「ハンターの兄ちゃん頑張れ!」
「さるもねら、なんか…ぶっとばしちゃえ!」
「勝って来たらちゅーしたげるね!・・・えへ。」
「まけんなーーーっ!!」



…この子達は、彼が戦ってくれると信じているのだろう。


(勝手に…勝手に決めないでくれ…!!)


当惑するマイト。多分彼の内心はこんな感じだったに違いない。

だが、出てきたのは歯切れの悪い言葉のみ。




「い、いや…僕は…!」



…そこまで言って…続きを…飲み込んだ。


あの子達の声は元気だ…そう、声は。

だがその姿はというと、一箇所に寄り集まり、震える体をお互いに必死で支えあっている。



…本来子供達を力づけるべきである大人たちは、戦う準備に追われていた。


…本当なら両親に縋りつきたいのだろう…。

だが、そんな事をすれば自分達の命を縮める。…キャラバン自体が消滅しかねないのだ。

だからそんな甘えは許されない…と、子供心に理解している…!



(あ…あぁ……僕は…僕はぁッ…!)



…どうしろと言うのだろう?

彼はこれ以上無いほどに追い詰められていた。


ドンに追われて地下道を逃げ惑っていた時とはまた違った焦燥感に心臓を鷲掴みにされる…。



…。



…コンコン


上部ハッチがノックされた。

…ジムおじさんかマゼラン老だろうか…。



(…断ろう…そしてここから早く逃げ出そう…!)



もう、この場所に一秒たりとも留まって居たくなかった…。

こんな所に居続けたら、己の良心に絞め殺されてしまうかも知れない。


サルの群れに焼き殺される事よりも、彼らの断末魔を聞いて、

その悪夢にうなされる方が余程恐ろしかった…。


「あ、ジムさん?それともマゼランさん?…あの、申し上げにくいのですが…。」

「…あ、あの、こんにちは…。」


予想に反し…ちょこんと乗っかっていたのは、小さな女の子。

…必死によじ登ってきたらしく、あちこちに擦り傷が見える。


「えっと…君は?」

「ハンターのお兄ちゃん。お守りあげるから、がんばって。」


…手渡されたそれは、タンポポの花輪…。

手作りであろうその花輪…だが、彼にとってはまるで手錠のように見えた…。
































(…嗚呼、もうすでに逃げるべき道は閉ざされていたんだ…。)




























「……ありがとう。」

「うん!」


…死への恐怖を押し殺して満面の笑顔を浮かべ、マイトは花輪を受け取った。

そして少女を下に降ろした後、戦車を動かしジムの元に向かう。



…その顔に、既に迷いは無かった。



…。



「行くんだな?」

「うん、どうやら逃げ道は塞がれてるみたいだしね…。」



…二人はお互いの目を見て…そして、同時に頷いた。

数瞬の後、戦車のキャタピラが力強く躍動を始め、彼らを戦場へと誘う。


マイトはクルマの上にジムを乗せ、北へと進む。

…キャラバンの人達から、出来る限り離れた場所で戦う為に…。



…。



…それから数分後…視界の先に、裸眼でも土煙が見え始めた。

それを確認したジムが言う。



「今更だけどよ…敵は多数だ。良いんだな?」

「うん。…それにここで逃げたら、何かあるごとにずっと逃げ続ける事になると思うから…。」


「…ふん。まあ、そりゃそうかもな。」

「けど、きっとそれじゃあ生き延びれないと思うんだ…それに。」



…それに、亡霊に怯えて暮らしたくは無い…。



そんな想いを飲み込んで、マイトは照準を睨み付けた。

…背後では、自動装填装置が主砲塔内に砲弾を詰め込んでいく…。


慣れない行動に、掌から汗がにじみ出た。

自分でも…緊張しているのがわかる…。



「ちょっと、邪魔かな…。」



戦闘の邪魔になるだろうと、

現実逃避も兼ねて、さっきの花輪を側壁のフックにかけようしたマイト。


だが、そのフックには先客が居た。



「開発者のメモ?…まだあったのか…。」



…この車を作った開発者達が残した最後のメモ…。

それには、このクルマに対する彼らの思いがつづられていた。





『汝は力無き者達の牙…不毛な時代を生き延びる為の蹄…そして、運命に抗う為の"力"なり。』





…はっ、とした。

彼らはこの時代を予見し…そして、この時代に生きる人類の為にこれを残したのだ。


…それに引き換え自分はどうだ…。

己の都合だけで動いてる。…彼らを助けるのも、自分が納得する為だけではないのか?



…胸の奥に…僅かにズキリとくる"何か"があった。



…けれど、彼はそんな自分を否定しなかった。

自分の為に…生き延びる為に戦うのは、絶対に間違ってはいない!



「今はただ進むだけだよ…この時代で生き抜くために…!!」



その時…相手の姿が、おぼろげながら見えてきた。

サルがバーナーを持っている…等という非科学的な事態を気にしている余裕は無い。


敵であるなら殺らねば殺られる。細かい事を考えている余裕は無い。

そう、戦いの火蓋は今にも切られようとしていたのだから…。

― 続く ―


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