メタルマックス・ロスト=ストーリー

ただ、生き延びる為に…


―第四章―





…前方全てを土煙が覆っていた。

上を見ればこれ以上無い程いい天気であるのに、彼らの視線の先には茶色い土煙しか見えない。



(昔、話に聞いた"黄砂"がこう言うモノだったのかもね…。)



…そんな取りとめもない事を考えながら、マイトは死地に向かっている。


太陽により熱せられた上部装甲の上では、ジムが武器の最終チェックを行っていた。

…だが、その表情は晴れない。



「ねえジムおじさん。…やっぱり不安なの?」

「…別に。ただ、ちょっと気分が悪い。」


…カチャリ…と音をたて、マガジンがあるべき所に収まる。

そして、迫る敵を睨む視線は間違いなくプロのものだ。…そうマイトには見えていた。



「…あいつら…強いのかな…?」



…正直、聞くべき事ではないと思う。

無用な不安を戦闘前にかきたてるような事をしても、いい事など無い事は判りきっている。


…だが不安だった。だから思わず聞いてしまった。

だが、返答は彼の予想とは異なっていた。



「いや?…そうだな…37mm砲でも倒せる程度の相手だぞ。…前衛なら機銃でも薙ぎ倒せる。」

「そ、そうなんだ。」


…一瞬の安堵。だが、ジムは釘を刺すような一言を忘れなかった。


「けどな、あの数は脅威だ。…俺たちの場合、"ここを突破されない"って条件があるからな。」

「…もし、突破されたら?」


「一匹や二匹なら向こうが片つけるさ。けどな、数が増えたら被害がでかくなる。」

「…うん。」



責任重大。…今までに無い感覚に意識が遠のく。

…眩暈による運転ミスか、僅かに車体がぶれる。



「言っとくけどな。…別に命かけてまで助ける義理は無いんだぜ?」

「…え?」


「人間誰だって自分が一番可愛いのさ。…別におかしい事じゃない。」

「けど、頼まれた以上…。」



…その答えにジムは満足げに頷く。



「そうだな。出来る限り頑張るべきだ。…けどな、マジでやばくなったら逃げろ。」

「…本当に危なくなったら…逃げる…。」


「おうよ。…基本だがな、それが…生き延びるコツだ。」

「…うん。」



それを最後にジムはクルマから飛び降りる。



「おじさん?」

「ヒヨッコ。…ここいらで"待ち"だ。迎撃準備整えとけ。」



…ぴりっ…とした空気が周囲を包む。

今いるこの場所が、戦場になる。…余り実感は沸かないがそういう事なのだ。



…振り向けば米粒のようなトラックの群れ。

簡単に言えば、あの場所まで敵が行かないようにすれば良いのだ。



…本当に、"言うだけなら"簡単な話ではある。



(別に…無理に倒さなくても、せめて進行方向さえ変えられれば…!)

「甘い考えは捨てな。」


…びくっ


「なんで考えてる事が…?」

「…カメラがせわしなく動いてたからな。…視線の流れで、大体判った。」


事実ガルムのメインカメラは、

敵の群れ→後方のトラック→敵の群れ→ジワジワと右方向、続いて左方向…。

と言うように動いていた。



「でも、なんでだい?…賞金も大事だろうけど、まずは向こうに敵が行かないようにするべき…。」

「良く聞け。…両側が丘になっているから気付かないだろうが、その奥は沼地だ。」


「…沼地?…そうか、それで…。」



…マイトは自分の足元を見た。

舗装されている訳でもないのにこの付近はよくならされ、道路を形成している。


それはこの一帯が通行量が際立って多いという事に他ならない。

…つまり、ここ以外に先に進むべき道は無いという事だ。



「判ったなヒヨッコ?…奴らも底無し沼に自分から落ちてくれる程間抜けじゃない。」

「…誘導してる暇があったら、さっさと蹴散らしておけと言う事か…。」


「それだけじゃない。…歩きならともかく重量のあるクルマじゃ、この辺しか通れないのさ。」

「それって…。」


「そう言うこった。…奴らを蹴散らさなけりゃ、俺らは先に行けないって訳よ。」

「…。」



…背中を冷たい汗が伝う。

自分が進んでいた道筋のままだと、下手をしたら沼地に沈んでいたかも知れない。


そしてその場合…。



(情けは人のためならず…か。)



旧時代の名言を脳裏に思い浮かべながら、マイトは己の選択が正しかった事と、彼らと引き合わせてくれた偶然と言う物に感謝しつつ、主砲の照準を覗き込んだ…。




…。




「…うひゃあ…改めて見ると、すげぇ群れだな。…奴ら、普通は穴の中に居るもんなんだが…。」

「もしかして引越し中?…子供抱いてるのまで居るよ…。」


「かもな。…けど、俺たちに容赦はしてくれなさそうだぜ?」

「うん。…凄く目が血走ってるみたいだ…なんだか鬼気迫るものがあるよ…。」



彼我の距離はかなり迫っていた。

…相手は全力疾走に近い形で突き進んでくる。


それは暴走と言うに相応しい規模であった。

…凄まじい数のさる・猿・サル…。



…。



「さて、やっこさん達もこっちに気付いたみたいだな。」

「…射程距離内だけど…まだ撃たないの?」



さっきから、主砲発射を止められているマイトは不安げに聞いてみる。

あまり接近されれば主砲は意味を失う事ぐらい、彼でも知っていた。



「…敵の群れのど真ん中に撃ち込んでやれ。…じゃないと弾が保たないからな…。」

「そうか。…これだけの数、一匹ごとに弾を使ってられないな…。」


「ようやく判ったか。…近くまできた奴は機銃でなぎ払え。…狩り残しは俺がやる!」

「了解!」



…。



待つ時間とはなんと長い物なのだろうか…。

マイトはそんな事を考えていた。


敵は目の前まで来ている。

…一番先頭は既に近すぎて主砲が当たらないと言うレベルに達していた。


…ジムはと言えば、大きめの岩を見つけ、その影でタバコなどを燻らせている。

呑気な事をとは言うまい。クルマが盾になる自分とは立場が違うのだ。


…落ち着くために必要なのだろう…。



「サル…来たよ、おじさん。」

「…ああ、地響きで判る。…さて、そろそろだな。」



…その瞬間、ジムは岩の上に踊り出るとSMGウージーを乱射する!

狙いなど付ける必要は無い。前方にさえ撃てば何処に居ても当たるのだから…。



「ヒヨッコぉっ!…固まってないで撃てェッ!!」

「は、はい!!」



一瞬跳んだ思考を現実世界に引き戻し、主砲を敵集団のど真ん中にぶっ放す!



「ちくしょうっ、どうせなら始める3分前とかに教えてくれたって!!」

「…お前の度胸じゃ臨戦態勢での"待機"に180秒も耐え切れねぇよ。」



憎まれ口を叩きながらも、ジムは的確にサルの群れを貫いていく!

…次々と死体の山が築かれ、だがその上から次のサルが次々と沸いて出てきた!



「く、来るな、来るな!…来るな!!」



フルオートで吐き出される機銃弾。それは迫るサル達を次々と挽肉に代える。

9mmという口径の小さい機銃だが、幸いこのレベルの相手なら一撃でしとめられた。


…とは言え、迫る敵と言う重圧に彼の心は次第に追い詰められていく…。



「こっち来るなよぉおおおっ!!」

「無駄弾は撃つんじゃない!…ちっ、聞いてないか。」



機銃の射撃音と共に彼らの前に積み上げられる挽肉。

…そしてそれに混ざって時折爆音が轟き、先のほうで何匹かが宙を舞う…。



それでも敵は、後から後から湧いて出る。

彼らの努力をあざ笑うかのように…。



…。



…サルモネラ一家の行進を食い止め始めて10分ほどが経過した。

最初の頃に撃ち殺した死体は既に原形を止めていない。



「…うぐっ。」



そこいらじゅうに脳漿がぶちまけられ、血と体液が水溜りを形成している。

周囲は血と硝煙の匂いで包まれ、息もしづらいほど…。


銃弾で砕かれ、その上を同胞の足で踏み固められた無残な亡骸。

だが、それを哀れんでいる余裕は無い。



「まだ先があるのか?まだ敵があるのか?まだ来る?まだ居る!?」

「落ち着けヒヨッコ!焦った奴から死ぬのが戦場だ!!」



ジムの叱咤で辛うじて自我を支えるマイト。

…その声に応えている事だけがこの地獄絵図の中、自分が自分である証拠のようだった。



(自分の手が血に濡れて行く。月並みだけど…まあ、人の血じゃないのが救いかな?)



…次々と迫る敵に磨耗させられた精神状態の中、彼はぼんやりとそんな事を思っていた。

既にトリガーを引く指は、条件反射の域に達している。































(…ああ、またてきがくる…てきは、てきは、てき・て・きて・ててててきてききき…)

































「オイこらヒヨッコ!…何ボケっとしてやがる!!」

「…え?」


…通信機越しの怒鳴り声にはっと我に返る。

とうとう完全に周囲の雰囲気に飲まれていたのか?



「ほら、急いで体勢を立て直せ!…もう何匹か逃がしちまったじゃねぇか!!」

「…え?きっちりトリガーは…ほら。」


機銃のトリガーは握り続けている。

…砲撃も相変わらず続けていた。…何がおかしいと言うのか?


「良く見ろ馬鹿!」

「…あ。」



…9mm機銃が…沈黙していた。

だが、クルマの状態を示すデータは正常を示したままだ。


「…なんで?」

「無駄撃ちすんなって言ったろうが!!」


…はっとして別画面を見る。機銃の弾丸が…尽きていた。

ふと気付くと、車内にアラームが鳴り響いている。…意識が飛んでいる内は気付かなかったのだ。



「…よ、予備弾倉…間に合えっ!」

「ちっ!…とんでもない数が一斉に!…奴らも最後の賭けに出やがったな!?」



…ガチャリと弾倉交換が済んだ時、死体の山の上に立つ影が…。

今までの連中より一回りほど大きい。



…。



「…でかいな…。」

「これがホントのサルモネラ一家さ。…さっきまでのは、火遊びザルってとこだ。」



…その時、サルモネラ一家たちが自らの踏んづけているモノを見て、悲しげに一鳴きした。



「…なんだか、寂しそうだな…。」

「ああ、多分カタキは取る…とかそう言うのだろうがな…。」



…そんなジムの予想通り、サルモネラ一家の本隊は一際大きくバーナーの炎を吹きつけながらじわりじわりとこちらににじり寄ってきた…。



「やっぱり、僕らを殺す気なんだよね?」

「まあ、当然だ。…とはいえ、やられる気は無い。」



…ぺっ…とジムは咥えていたタバコを吹き出した。

そして、それが地面に付くかつかないかと言う瞬間…そこに何かが差し出される!



…ボシュ!



マイトに判ったのは、花火のような何かがジムの手から飛んでいったという事だけだった。

…次の瞬間、一匹の顔で爆発が起き…そのまま鼻血を噴出しながら倒れていく…。



「…え?」



…あっけに取られている内に、ジムは何時の間にやら2匹目に突撃している。


更に慌てて突き出されたバーナーに飛び乗ると、そこを支点にして2段目のジャンプ!

そして両足で敵の顔面を蹴りつけるとその勢いを利用して後方に飛んだ!



「すご…。」

「馬鹿野郎!何度言わせるんだ、ぼさっとするんじゃねぇ!」



…!


くらっ…と衝撃が操縦席に伝わった。

…はっとして前方をモニターすると正面装甲に殴りかかるサルモネラ一家の姿がある。



「しまった…これじゃ機銃も届かない!」



…無論、そんな事で傷つくほどやわな車体ではない。

だが命を狙っている敵に接近されたと言う事で、彼は混乱してしまっていた。



「くそっ、離れろ、離れろォッ!」



バックしたり砲塔を振ってみたりするものの、相手にしてみれば狼狽しているのが判るだけだ。

これが時ぞとばかり、何匹ものサルが殺到してきた…。



…。



「このっ、このっ、このっ!!」


…必死になってがむしゃらに車体を揺らす…。

だが、相手を振り払う事は出来なかった。



「装甲の表面温度が上がってる?…このままじゃ!」



敵の攻撃力では戦車に傷をつけることなど出来はしない。

だが、バーナーの熱でじわじわ上がっていく装甲の表面温度に、彼の理性も焼かれていた。



「どうする、どうするどうするどうする!?」



…思考が空回りしたまま時だけが流れていく。

無論、事態はどんどん悪い方向に向かっているのだろう、だが、打開策が見つからない。



…突然上のほうでガシャっと音がした。



「え?」

「…キキッ」




…ハッチが開き…サルがこちらを見ている…。




「あ…かぎ…しめて…なかった…。」

「…キキキッ!」



どうしようもない凡ミス…彼には上のサルが笑っているように見えた。

…いや、事実笑っていたのかも知れない。



バーナーが車内に差し入れられた。

無論、その先はマイト自身に向けられていて…。



































「うわあああああああっ!!」





























…直接的な死の恐怖…。

マイトは頭を抱え丸くなって震えていた。



あれからどれだけ経ったか…など判る筈も無い。

ただ、焼き殺されるまでの一瞬にしては随分長いな…と彼は感じていた。



…ごとり。



背後で何かの物音がする。

恐る恐る振り向くと、座席の後ろにバーナーが落ちていた。



「え?」



…怪訝そうに上を見ると、サルの腕がだらしなく垂れ下がっていた…。



…。



「…なんだこりゃ…。」


訳がわからぬまま、マイトは車外に身を乗り出す。

色々いう事はあるだろうが、一言で言えば、焦げ臭い。


…その向こうではジムが座り込み、タバコをふかしていた。



「おう、生きてるか?」

「えー。…どういう事なのか判りやすく説明してもらえるよね…?」



…綺麗だった車体はあちこち焦げ、肉か皮か…よくわからない"何か"がこびりついていた。

そして、周囲には何かが爆発したような跡。


そして、サルたちの死骸があちらこちらに散らばっている。

一体何が起こったと言うのだろうか?



…。



「いやな、お前が狼狽してるから連中、お前の方に殺到していってよ…。」

「…うん。それは判る。」



あれから暫し。…マイトは上部装甲に頬杖を付きながら、ジムの話を聞いている。

…当のジムはと言えば、金目の物が無いかと探しながらさっきの事を説明しているせいか、

戦闘中にひしひしと伝わってきた貫禄と言う物が感じられない。



「…もしや…とおもって距離を取ってたら、案の定全部が集まりやがったんだ。」

「助けてくれなかった訳は?」



「あんだけの数引き剥がすのは大仕事だからな。…お、コイツ小銭もってやがる。」

「…で、…どうやってあれだけの数を殲滅したのかな?」



…マイトの額には青筋が浮かびかけている。

何となく…だがオチが読めていたのかもしれない。


…。


「おうよ、全部集まったのを見計らって、手持ちの手榴弾…全部投げつけてやった。」

「乱暴な……僕の事はどうでもいいのか…!」



「HA・HA・HA!…細かい事言うんじゃねぇ!男だろ!?」

「細かくなーい!!」


「あ、そうそう…賞金は山分けだからな?」

「人の話を聞けーっ!!」


豪快に笑うジムに対し、マイトは疲れ果てたと言わんばかりにぺたりと突っ伏した。


…。


「ま、いいか…とにかくこれで終わったんだし…。」

「だな。ま、終わり良ければ全て良し!街に着いたら酒場にでも行くか!」



…そう言って、ジムは進むべき先を指差す。

口には咥えタバコ…実に上機嫌だ。



「見よ、あの土煙の向こうには街がある。…そこまで行けば一息つけるってもんだ!」

「そうか、あのサル達が来た方向だったっけ…あの土煙の向こうに…。」



「そう、あの土煙の向こうにだ!」

「はは、あの土煙の……土煙!?」



…はっ…と二人は顔を見合わせた。



「おじさん…なんで…土煙が晴れてないの?…もうサルは居ないんだよ?」

「……なんてこった。サルモネラの奴ら、"あれ"から逃げてたのか…。」



…ジムは双眼鏡を覗き込み…呆然とタバコを取り落とす。

その表情から余裕と…赤みが消えていた。



「…おじさん?」

「ヒヨッコ…お前だけでも逃げろ。」



「どうしたんだよ、いきなり?」

「最悪だ。…こんな一本道じゃ逃げ切れるわけがねぇ…。」



…マイトは双眼鏡を奪い取ると、土煙の先のほうを凝視する。

見なければ良かったかも知れない。…顔が一気に青ざめていく…。



「…なんだよ、あれ…きいてないよ…あんな、化け物…。」

「サイゴンだ。この周囲じゃ最強クラスの賞金首…。」



彼らの行くべき方向から…巨大なサイの化け物が走りこんできていた。

…尋常ではない巨体、そして肩口にはどう言う訳か砲身が突き出ている…。




(…い、急いで逃げないと!…確かに無駄死にはゴメンだ!!)




急いで車体を180度反転させようとしたマイトだが…ある事に気付きエンジンを止める。




「あの…その……おじさんは…どうするの?」

「沼地に逃げ込んで、運を天に任せるしかねぇな。」




「じ、じゃあ、後ろの…トレーダーの人たちは…?」



ぎりっ…悔しそうな歯軋りの後、ジムは搾り出すように続けた。



「…同じように沼地に逃げるしかないだろうな。荷物は惜しかろうが命を無くすよりは…。」

「それで助かるの?」


「さてな…運良く奴に気付かれなかったら生き延びるさ…。」

「…そんな…。」



…今までやってきたのは何だったのか。…そんな無力感に苛まれマイトは俯く。

死にそうになってまで必死で戦ったのに、全ては無駄な事だったと言うのか?





…その時、彼の視界の隅にガルムの主砲が写った。





「ねぇ。」

「…ん?お前のクルマなら逃げ切れるかも知れねぇ…さっさと…。」



ジムは自分の荷物をまとめながらそう言う。

だが、マイトはそれを制した。



「違うんだ。…コイツでなら…戦えないかな?」



…。



…一瞬、ジムの顔が険しくなる。

だが、すぐに困ったような笑顔を浮かべると、鼻の頭を掻きながらこう言うのだった…。





「腕と運が良けりゃ勝てなくも無い…かもな。」





…その言葉を聞くや否や、マイトは車内に消える。

そして、次の瞬間にはエンジンが再びその音を轟かせていた。



「なあ、ヒヨッコ…お前、なんで戦う気になった?」

「…このまま逃げるのも悔しいし。それに。」


「それに?」


…マイトはひょい、とあるものを指差した。

見ると地面が不自然に濡れている。


ジムがそれに触れると…彼はマイトが何を言いたいのか、一瞬で理解した。



「燃料漏れ…か。」

「…うん、さっきのサルたちの所為だと思う。…予備タンクだけじゃそんなにもたないよ。」



…マイトは苦笑していた。

逃げ切れる可能性が消滅した事で、逆に肝が据わった事に気付いたのだ。



「やれやれ…それじゃあ俺も一仕事だ。…上手く勝てたら酒場で祝杯でもあげるか。」

「…僕、まだ未成年なんだけど…。」


「おうおう、そんな台詞が出るなら落ち着いてきたな?」

「…わからない。」



すると…ジムが上部装甲に飛び乗り、マイトの両肩をバンと叩いてきた。

…酷く、険しい顔で。



「…言っとくが、今度の相手はさっきの比じゃない。…さっきみたくボケっとしちまったら…。」

「しちまったら…?」





「…冗談抜きで…死ぬぞ。」





…それは脅しのようにも聞こえる激励だった。

けれども彼なりにマイトに気を使っての事かもしれない。



だが…そうこうしている間にもサイゴンは近づいてくる。



先程より強い敵が、
先程より速い速度で近づいてくる。

…対してこちらは

先程より疲労していて、
先程より傷ついていて、
先程より消耗していた。



…。


砲弾も残り少ない。…機銃も先ほどの余波で調子が悪い。

ジムは薬の残数を心もとなそうに数えていた。


…状況はどう考えても芳しくない。

だがそれでも敵は、委細構わずに迫ってくるのであった…。

― 続く ―


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