第3話 - 銀 幕 - Bパート

作:バランスさん



「あの制服を着た人達は、どうしてさっきの人達を追いまわしてたのかしら。」
「よく解らないな。だがどうやら制服につかまると、あの市民達は恐ろしい目に遭うことが決まっているらしい。」
かつてヨーロッパと呼ばれた地域を席巻した「ドイツ国」はチョビ髭の男に率いられ
て暴虐の限りを尽くしたが、無理な戦争による疲弊と、非人道的な行為によって支持
を失った事とがたたって、敗北の道を歩んだらしかった。

   画面では今しも最後の賭けに出たドイツが、大佐と呼ばれる男の指揮する戦車隊を
「アルデンの森」地帯に出撃させた所だ。
だが、その一方でチョビ髭の男と寸分たがわぬ顔の床屋が、制服に追われる人々の為
にチョビ髭本人とすり替わる計画を実行に移している。

「やたらと『大佐』が出てくるな、この映画には。」グレッグは少々不快になった。
大佐といえばどうしてもデュランを思い出してしまう。
 おまけに、その「大佐」たちが搭乗する「キングタイガー戦車」は別の車種をそれ
と見たてているらしく、ファブニールとは似ても似つかぬ醜悪な物なのだった。

 上映時間は思いのほか長かった。
途中で入ったので結局ラストシーンを2回見ている。およそ誰の体にも合わないよう
に設計されたとしか思えない座席のせいで、尻から腰のあたりにかけて不快な痺れと痛みがあった。
「けっこう面白かったわね。ラストの演説が良かったな。」
アリサは別に腰を痛めた様子もなく元気そうだ。グレッグは自分がひどく年寄りに
なってしまったような気分になった。

 テアトル電気館を出ると辺りはすっかり暗く、製造の容易な白熱電球の黄色っぽい
光が、街の其処ここを照らし出している。その分暗がりの闇の深さも増すようだ。
食い物屋の屋台から油っぽい煙の匂いが漂って来る。
「すっかり遅くなったな、ホテルまで送ろう。」
辺りを見まわしてアリサは首をすくめると、小さくうなずいてグレッグの手首をつか
んだ。ひどく力が入っていて、少女の手というより万力のようだ。
「・・・そんなに握ったら痛い。」握力が少し緩んだ。


ホテルに帰るとフロント係の男が声をかけてきた。
「お帰りなさいませ。お連れ様はお出かけになられましたよ。」
「ママが?」
「ええ、二人連れの男の方とご一緒でしたが。」
二人は思わず顔を見合わせた。グレッグの表情をどう理解したのか、アリサは
(そんな事はありえない)とでも言いたげに首を振った。
「・・・行き先は聞いてる?」
「いいえ。」
「どんな連中だった?」
「ハンターの方でしょう。そちらの方と同じ様な格好で、腰にカウンターがついていましたから。」
「ありがとう。」言うや否や二人は3階への階段を駆け上っていた。

(何が起きてるのか判らんがこいつはどうも厄介そうだ。)
グレッグはショットガンを引き抜くと、ドアの横の壁に背中を向けてへばりついた。
アリサは向こう側の壁。
何処に隠し持っていたのか長さ40センチほどのモンキースパナを手にしている。
(あの怪力でスパナを振り回したひにゃ、食らったヤツはとんだ災難だ。)
彼女との初対面のときに平手でひっぱたかれた事を思い出して、グレッグの首筋
を冷や汗が流れた。物音は無い。どうやら部屋の中に人はいないようだ。

 踏み込んでみると部屋の中は照明が消えて静まり返っている。
手探りでスイッチを探し当てて明かりをつけると、部屋は特に荒らされた形跡も無く
サマンサを連れ去った侵入者達の正体や意図を窺わせる物は何も残っていなかった。
「『テアトル電気館』で会った人が言ってた事と、関係あるのかしら。」
「判らん。お袋さんには人に狙われるような事情は何もなかったのか?」
「そんな事、私だって判らないわよ。研究所の仕事については何も話して呉れなかったもの。」
グレッグはもう一度辺りを見まわした。
(考えろ、グレッグ。ゆうべここで話をしたときと、何か変わっている事は?)
(・・・あの時ベッドのそばには確かスチュアート先生の荷物があったはずだ。
すこし大き目の茶色いボストンバッグだった。今は?)

 無い。

(荷物も込みで連れ出したということは・・・)
侵入者の目的はサマンサ自身にあると思って間違いなさそうだ。
「グレッグ・・・これ・・・」
言いよどみながらアリサが小さなブリーフケースを抱えてきた。
「これは?」
「ママが荷物から出して別にしまっていたのを思い出したの。クロゼットの奥にあったわ。」
中を覗いてみると細かい字でタイプされた書類の束だ。化学式や分子構造図、それに
何かの機械部品のような物の一部が書類の端に覗いていた。
だが今の所熟読する暇はない。

「よし、行動開始だ。アリサ、君はこれを持ってレンタル屋に行くんだ。」
 グレッグはアリサに自分のIDの入った駐車場のキーカードを手渡した。
終着点のはっきりしない、しかも迅速を要求される追跡行には、ファブニールは向い
ていないのは明らかだ。
「これを提示して俺の代理だと言えば車を貸してくれる。・・・レンタ7号がいいだろう。
 スピードが出るし後続距離も長い。武装もあのクラスのバギーとしてはまあまあだ。
 街の門の前で待て。朝まで俺が来なかったら一旦街に戻って、アンディーの所で合流しよう。
 俺はハンターオフィスに行く。」
粉屋のテッドが形見に残した例のリボルバーもホルスターごと手渡した。
「念のためにこれも持っていけ。使えるな?」
アリサはグレッグの目を見つめながら無言でうなずいた。

 ハンターオフィスは、街によっても違うが大抵はかなり夜遅くまで開いている。
カウンターには眠たげな様子の青年が、代用コーヒーをすすり古い雑誌を拾い読み
しながら座っていた。
「今晩は。ご用事は?」
運悪く遅番にあたったらしい青年は、面倒くさそうに声をかけてきた。多分頭の中は
家にさっさと帰って寝ることか、途中の酒場で安い酒を引っ掛けることで一杯だろう。
金に余裕があればいかがわしい女と一夜の歓楽にふける予定かもしれない。

「調べものだ。ネットコンピューターの端末を借りたい。」
「・・・困ったな。後30分で閉めますよ。」
「すまないな、終業までに終わらなければ、君には残業してもらう事になる。」
「そんな!いったいなんの権利があって・・・」
目をむいて抗議する青年を押し退けて端末に歩み寄りながらグレッグは答えた。
「人の命がかかってるんでね。『黒ハンター』がらみの事件の可能性もある。」
「黒ハンター!!」青年は凍りついた。

 モンスターハンターが職業として成立してから半世紀ほどになる。その存在意義は
もとより人類の生活圏の防衛と重犯罪者の取り締まりにあるのが建前だが、まれには
そうした倫理と無関係に活動する、ハンターの姿を装った犯罪者も存在する。
 オフィスのコンピューターに暗号化された形で紛れ込んだ非合法な仕事の依頼を、
表向きの安い仕事―普通のハンターなら見向きもしないような物―を装って受けては
高額の報酬を手にする、悪質な寄生虫ども。それが、「黒ハンター」だ。
その存在は以前から取り沙汰されているが、いまだにその多くは摘発されないまま
で新たな被害も後を絶たない。

「・・・お手伝いします。」青年がそう言ってグレッグの隣の端末に向かった。
「助かる。そうだな、一週間以内にこの町に立ち寄ったハンターをリストアップしてみてくれないか。」
駐車場のIDキーリーダーからのデータが、ここにも記録されているのだ。
数秒の間、青年のキー入力の音が響いた。
「出ました。そちらのモニターへ出します。」
十数名のハンターの名前とプロフィールが表示された。
「意外と多いな。」

*******************

・バランス=ダイン      :登録ナンバーb4430001289
     使用車輛/サンダーバグ
       車種/デューンバギーFV450型
・ケイン=サルワタリ     :登録ナンバーk5719003321
     使用車両/ルクス2
       車種/6輪装甲車JF87式



・アンドリュー=メレンキャンプ:登録ナンバーa0098070308
     使用車両/アルバトロス
       車種/装甲バス;対空対地バルカンシステム
*******************

「あいつ、そんな本名だったのか。」グレッグは苦笑した。
そう言えば一度もフルネームを聞いたことが無かった。

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・グレッグ=マイヤー     :登録ナンバーg11830000102
      使用車両/ファブニール
        車種/発掘戦車・形式不明  
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これは当然除外だ。それにしてもオフィスも知らんファブニールの形式名を知ってる
あのセルゲイって男、相当の戦車通だな?おっ、これか。

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・セルゲイ=キーロフ     :登録ナンバーs30880000026
      使用車両/ロジーナMkU
        車種/T-34-85



・オスカー=ヴォネガット   :登録ナンバーo27780930082
      使用車両/ハインリッヒ
        車種/ゲパルト



*******************

(ん?このゲパルトは・・・昨日のヤツか。)
滞在記録の欄がグレッグの注意を引いた。
9月12日、つまり昨日の夕方にチェックインして、今日13日の夕方早くに街を出ている。
ハンターが街に滞在する時間としては、彼自身の感覚に照らして異常に短かった。
(クサイな。)ヴォネガットが受けた依頼のリストを呼び出すと確かにいくつか、
妙に報酬が安く内容の曖昧な依頼がある。
グレッグは隣の端末を操作する青年に呼びかけた。
「こいつの請負リストをチェックしてくれないか。暗号メッセージのデコードは俺の技術じゃ難しそうだ。」
「任せてください。」黒ハンターを摘発できればオフィスでの地位は保証されたようなものだ。
青年は今やあらん限りの情熱を込めて、複雑なコンピューター言語の樹海へと分け入って行った。

 時間にしておよそ1時間半。ヴォネガットの請け負った依頼がその正体を現した。
二人は天井を見上げ、溜息をついた。

「ありがとう。これでスチュアート先生を助けに行ける。」
「お礼なんか言わないで下さい。この仕事について始めて自分の仕事に誇りを持てましたよ。
 こちらこそ、ありがとうを言わなくちゃ。」
青年はカウンターに戻ると何かの伝票にサインした。
「これを持って行ってください。クラス2までのどんな携帯武器でも、駐車場付属の遺失物ロッカーから借り出せます。
 損失、消耗した場合はオフィスで負担しますから。」
いいのか、と聞き返すグレッグに青年は片目をつぶって答えた。

「ご心配なく。こういうケースに関しては最大限の権限を発揮できるんですよ、我々オフィサーはね。」


このパインブリッジのような大きな街なら大抵、駐車場にはハンターやソルジャー
が当座の間使わない装備や部品―仕事中に手に入れたものなど―を一時預かりして
呉れる、預かり所(トランクルーム)がある。だが、全てのハンターがその品物を
引き取りに来るわけではない。
 時折、持ち主が死亡もしくは行方不明になって、そのままになる預かり品が発生する。
遺失物ロッカーとはそうした物品が一定期間を過ぎて町の武器店に払い下げられるまでの間保管する場所なのだ。

 グレッグは擲弾筒付きのアサルトライフルと、対戦車ロケットを借り出して街の門前で待つアリサのバギーに合流した。
 時刻は午後11時43分。
ヴォネガットが依頼者と合流するまで、48時間と17分。場所はパインブリッジ
から北東へ直線で500kmに位置する小さな廃墟、ロックヘッド。


「お袋さんがいた東部の研究所では、人間を戦闘マシーンに作りかえる技術を色々と研究していたんだ。
 内蔵された武器まで自己修復可能にするナノマシンを移植する類のな。
 だがあるきっかけで、彼女はそれが嫌になった。」
平均時速60kmで疾駆するバギーの中で、グレッグは大まかな事情をアリサに説明してやった。
「・・・それで研究所を辞めて、西部で開業する事にしたのね?」
「だろうな。だが彼女の研究に目をつけた悪人が、悪徳ハンターのヴォネガットに依頼をした。
 サマンサ・リー・スチュアート博士を拉致しろと。」
「ママがそんな事に関わってたなんて・・・」
「嘆く事はない。そうした技術は正しく使えば、多くの人間を幸せにすることができるんだ。
 スチュアート博士は人類の宝といっても大げさじゃない。
 自己修復する生体材料で義手や義足を作る事を想像してみろ。」
悪人の手に渡したり殺させたりしてなるものか。アクセルを踏み込むグレッグの足に力がこもった。

 ヘッドライトに使われた強力なハロゲンランプの二条の光が、剣となって夜の闇を切り裂いていく。
この辺りは起伏の多い台地が広がっていて、夜間に高速で走り回るのはあまり楽ではない。
4時間ほど走ってさすがにグレッグは疲労を覚えた。
「アリサ、運転を変わってくれ。車を停める。」
「解ったわ。少し休んで。」
ドアを開けて一旦車を降りる。運転席に上がりかけて突然アリサが怪訝そうに辺りを見まわした。
「どうした?」
「何か来るわ、早く乗って!」

ドアを閉めて急発進すると、一瞬遅れてバギーのいた場所を砲弾がえぐった。
その衝撃で一瞬、バギーのタイヤが地面から跳ね上がる。
「何だ!?」
「グレッグ、あそこ!4時の方角少し上!!」
闇にまぎれて大きな岩と見えていたそれが正体を現した。ライトに照らされて浮かび上がるその巨大な影は―
「ガンタワーか!!」全高十数メートルの背高な車体に機銃、レーザー砲、ミサイルと多彩な武装を持ち、
最上部に高性能の3次元レーダーを装備した、この一帯では最強のAT(自動戦車)。
大破壊からそろそろ100年、いいかげん活動を停止してもよさそうだが、
悪い事には自動兵器システムに組み込まれて、ATの補修や弾薬の補給等を行う
メカニコプターなどのようなモンスターまでいる。
一台一台破壊して廻らなければ、なかなかこいつらは減らない。
装甲も厚く、今装備している武器では倒すのにかなり時間が掛かるはずだ。

 バギーのルーフ上に装備された20mm機関砲に弾薬を装填しながら,グレッグは歯軋りをしていた。
なんてこった、運が悪いにも程がある。
このバギーでこういう相手と戦うには、機動力を生かしてアウトレンジから攻撃し続けるしかないのだが、
辺りの地形は岩壁や窪地が多く、走り回るにも逃げるにも都合が悪い。
 ファブニールならこういう地形でこそ踏破性と防御力を頼みに腰を据えて戦えるだろうが、
このバギーでは崩れた岩に足を止められでもしたらもうアウトだ。
 時折飛来するミサイルを機関砲で迎え撃ちながら、グレッグは死を覚悟していた。
なんとかアリサだけでも逃がさなければ。このままでは二人とも死ぬ。

 ガンタワーの戦闘塔部分に砲弾が命中した。一瞬遅れて発射音が聞こえる。
「何だ?!」グレッグは我が目を疑った。ようやく白み始めた空を背景に、
ガンタワーのミサイルランチャーのうち一基が破壊されて煙を上げているのが見えた。
「グレッグ、フォックストロット回線に!」ハンター用の車にのみ装備される、変調周期同期式の通信回線。
誰からか、その回線で呼びかけている事を示す黄色のランプが点灯している。
「えらいモンにとっ捕まってるな、お二人さん。ここは俺に任せて、先を急ぎな。」
聞き覚えのある声だ。「テアトル電気館」で出会った大男のハンター、キーロフの声だった。
「あんたか!何故ここに?」
「この辺りに出るモンスターには、高級な部品や貴重な物質を落とすヤツがいるんでな、
 ロジーナの修理も出来あがったんで、昨日夕方から狩りに出てたのさ。
 ハンターオフィスとの定時連絡であんた達の事を知ったってわけだ。」
野太い笑い声がヘッドセットのインカムに飛びこんできた。

少し離れた高台に、緑色をした車高の低い戦車が大き目の砲塔から長大な砲身を突き出して、
こちらを向いているのが見える。主砲だけならファブニールと互角かも知れなかった。
「すまん、助かる。」
「礼はいい。こいつからは時々強力なミサイルやそこそこ使える機銃を頂けるんだ。俺が引き付けている間にここを離れな。」
「解った。良い狩りを!」
ファブニールよりも機動力に優れていると見えるキーロフの戦車がたくみにガンタワーの砲撃をかわし、
的確に主砲を命中させているのが見て取れた。やがてその戦場絵巻が後方に遠ざかって行く。

 前方の荒地の彼方、遥か東の山脈に日が昇る頃、バギーはロックヘッドまであと半分ほどを残す位置にある、
放棄された給油所に差しかかった。こうした古い施設は人口の激減に伴って使われなくなった物が多いため、
時折幾ばくかの物資が残されている事がある。
 グレッグは燃料計に一瞥を呉れた。
満タンにして来てはいるものの、ここで予備の燃料を調達できれば後々の行動に柔軟性が持たせられる。
「給油できるかもしれん。ちょっと寄ろう。」アリサがそれに応じてハンドルを切りバギーを給油所へ寄せていった。

 辺りは荒涼としていた。
大破壊前の映像に残る「ガソリンスタンド」とは違って、申し訳程度にコンクリートを打った空き地に、
鉄条網と柵に囲まれたドラム缶の集積場と監視塔付きの小屋が隣接しているだけだ。
「ポンプが見当たらないな、多分小屋の中だろう。ここで待っててくれ。」
アリサにそう言うと、グレッグはショットガンを手に小屋へ近づいて行った。

「止まれ!」
突然小屋の中からしゃがれたわめき声がした。年老いた男が一人、銃身の長い旧式の狙撃用ライフルをこちらに向けている。
「わしの石油だ!取り上げようったってそうはいかんぞ、盗っ人野郎!!」
グレッグは仕方なく立ち止まるとショットガンを地面に投げ出し、両手を上げた。
「つまらん事は考えるなよ。後ろのバギーの奴もだ!!その砲身をこちらに向けたらこいつの頭が吹っ飛ぶと思え。」
誤解だ、とグレッグは叫んだ。
「占有者がいるとは思わなかったんだ。この給油所があんたの物なら、こちらに異存は無い。
 ただ、燃料を少し分けて欲しいだけだ。代価が必要なら払う。」
「少しは論理的に話ができるらしいな。山賊にしてはましな方か。」
手入れの悪い汚い歯をむき出して笑いながら、老人は小屋から出てきた。

「ここの石油につられて、てめえのようなヤツが月に一人二人は寄ってきやがる。
おかげで金や食い物にありつけるがな。昨日の変な戦車のヤツらは人数がいたから隠れるしかなかったが・・・」
「変な戦車?」グレッグは思わず聞き返した。
「てめえの知ったことじゃねえ。・・・細っこい機関砲を二門もつけやがって、いきなりぶっ放してきやがって・・・
 あいつらの分もてめえから貰って構わんよな?」
 理不尽な事を言ってくる。だが老人の言っている戦車とはゲパルトだろう。
してみると、ヴォネガット達も昨日ここを通ったのだ。
 老人は銃口をグレッグに向けたままじりじりと周りを廻っている。
「何を渡せばいいんだ?」無駄とはうすうす知りながら、グレッグは尋ねた。
多分、この老人はこうして、単独で給油に来た者から物資を奪い取って暮らしているのだろう。
手に余る相手にはとことん隠れ通してだ。客観的には弱者だが、なんとも毒虫のようなやつだ。
視界の隅を白い物が動いた。アリサだ。何時の間にか車から降りて、例のでかいスパナを手にしている。
走ってきて老人を殴り倒す気だろうか。
(止せ、アリサ!)
 言葉にならない内に、飛来した鉄色の物体が老人の手からライフルを跳ね飛ばし、
そのまま顎の部分を強打した。
スパナだ。

 昏倒した老人に馬乗りになってその手から銃を奪う。駆け寄ってきたアリサが拾い
直したスパナを振り上げ、老人の頭に振り下ろそうとした。
「コロス!!」
「やめろ!もういい、終わったんだ!!」ひどく非人間的な叫びを上げるアリサを、
抱き止めるようにしてようやく押さえた。老人は白目をむいて倒れているが、幸い生きているようだ。
回復カプセルを一個、口の中に押し込んでやる。下顎の骨が砕けているが、二日もあれば修復するだろう。

 アリサは憑き物が落ちたようにポカンとして立っている。自分が何をしていたのか、解っていないかのようだ。
(年頃の少女というのは不安定な物だが、この娘は一体・・・?)

 ポンプは小屋の中だった。
集積場から転がしてきたドラム缶から予備燃料タンクに一杯ガソリンを補充して、二人は給油所を後にした。
「燃料が手に入ったのはいいけど、とんだ寄り道だったわね。」
けろりとして言うアリサの方を、グレッグは見なかった。気になるが、今はサマンサの救出が先決だ。
(帰りにまた寄って、ガソリン代をあの老人に払ってやろう。)
今のところ、代金に見合うほどの金や食料は持っていない。

 あれだけの大怪我をさせた分の上乗せにできる程には。

 やがて日は高く昇り、ロックヘッドの廃墟がそのゴツゴツとしたシルエットを、山あいの低地の奥に覗かせ始めた。



バランスさん、ありがとうございました。m(_ _)m

あと、これもバランスさんから来た小説を手直ししています。
僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。
行間については元の通りにしたつもりです。
改行についてはやり直せと言われれば直します。(^^;

バランスさんへの感想はこちらです
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