METAL MAX 〜The Wild Abrams〜

プロローグ

作:virgoさん


いつの時代、どの場所での事なのか。はっきりした事は分からない。
ただそこが想像を絶する荒廃に満ちており、混乱を平常としているのだけは間違い無い。

それでもそこには人が住み、多いとは言えないが植物もいる。人以外の動物もいる。
だが、混乱の導き手もいるのだ。
「異形」の者達が。

荒涼とした平原。乾燥した大地にわずかな植物。
そこはもう何百年も人の手が入るのを拒んできたような場所だ。
土は大抵の植物には適さないほど痩せていて、いるだけで捉えどころの無い殺伐とした気分を味あわせる。

「死」

「無」

殺風景な景色が頭の中へ同調してくると、そんな言葉しか思い浮かばない。
おおよそ理想とはかけ離れた場所。
だがここにはかつて人が住んでいた。
時にそう断言する言い方に抵抗を感じるが、間違い無いのだ。
それは所々土から顔を出している人工的な物体によって裏付けられる。
彼らは過去を知るための数少ない証人。
コンクリートで出来た四角の角や、高いところに作られた道路の残骸。
今は無い鉄の道の欠片に、何のために建てられたのか赤茶けた鉄の塔。
それらの既に息絶えているその者達が、かつての栄光をなお語りつづけているのだ。
恐らく昔の人々は今の人よりもっと進んだ技術を持っていたのだろう。
それはこの時代にあっても、人々がいくらかのエネルギー文明の生活を享受できることでも良く分かる。
しかし、それでも人々は過去の幸福な歴史を考えるに及ばない。
皆自分達の種族はこの地上に産み落とされて以来、今のように追われる運命にあったと思っている。
人々は「異形」の者たちに、まるで彼らへの捧げ物のようにもてあそばれてきた。
満足に戦うすべを知らない多くの人は、その事に服従するしかなかった。
厳然とした一つの事実が、過去へ思いしのばせる力を奪っている。
人にとって「異形」は容易に逆らう事を許されない、圧倒的な力を持つ支配者なのだ。
「特別な者」を除いては。

乾燥した大地に土煙を巻き上げながら、一台のトラックが目的地を目指して足を速めている。
それは町と町との行き来を担う定期便だ。
荒廃した地でも何とか生きようとする人々は町を作り、行き来をするようになった。
しかしそれは大変な生命のリスクを負うことでもある。
また、個人はまず手段を得るということで壁にぶち当たる。
そこでそれらの間を移動するために作られたのが輸送協会だ。
設立者はケン・イルマという元トレーダー。
トレーダーとは流れながら商いを行うキャラバンの人々のことである。
そのトレーダーの経験を活かし、安全な旅の手段を人々に提供しようとイルマは輸送協会を設立したのだ。
当然の事ながら人々に足として親しまれるようになった
満足な交通手段もなく、乗用車など持てない人々にはその存在は貴重である。
もっとも、乗用車なんてカタギの代物では外に出る事などおぼつかないが。
その定期便は荷物と乗客を乗せている。
乗客は荷台の前の部分に簡易な窓と座席を付けた客室に乗せられている。
薄汚れた作業服に大きな荷物を持った男や、いかにも生活に疲れた顔をした夫婦に無邪気な子供。
背広を着た身なりの良い紳士に、難しい専門書を抱えた学生等が10人。
荷物は客室とはしきられた、荷台後部に積まれている。
中身は水、食料、衣類、機械類等など。
また、荷台の上にはしっかりと取りつけられた自衛用の機銃座がある。
そこには追い詰められた鼠のように顔の筋肉を引きつらせた男がへばりつき、「異形」の襲撃に備えて周囲に鋭い眼光を飛ばす。
奴らはどこから襲ってくるか見当もつかない。
普通に走ってる分にはまだマシ。
空から来る奴もいれば、地中を移動し突然下から現れるやつもいる。
普通の人間の戦闘的思考など及ばない。
いや、そもそもこんな機銃など効かないとも限らない。
それでもささやかな抵抗でも試みて、いくらかでも生き残るあがきをするつもりだ。
だがやっぱり駄目かもしれない。そんなことも頭をよぎる。
男は「異形」の怖さを知っていた。
かつて奴らに一度殺されかけているのだ。
圧倒的な力に、武器を持っても戦い方をよく知らなかった男は餌食にされかけた。
その時は幸い助けを得ることで難を逃れたが、いつも幸運が味方になってくれるわけはない。
以後は自分の実力を上げることを惜しまず鍛錬した。
でもどこまでそれが通じるのか。
何にせよ今男に出来る事はなるべく早く「異形」の存在を察し、それを仲間に知らせ、そして可能な限り弾を撃ちこむ。
少しでも生き残る算段を増やす事が今やるべき事なのだ。
男はそれを行うべく機銃座を回転させて、周囲のわずかな違和感をも察しようとした。

「ん?」

体と脳に染み込んだかつての経験が異常を知らせてきた。
何かがおかしい。
その知らせに忠実に、違和感を感じた2時方向に目を向けた。

「何があるんだ」

そこに見えるのは恐らくかつては立派な建物であったろうコンクリートの残骸群だ。

「化け物どもはあんなところを根城にしたがるが」

視界をさえぎるものがあって、隠れるところはいくらでもある。
スピードのある奴ならばそうして自分たちを近づけて、一気に攻めてくる事も考えられる。

「右斜め前方の残骸がおかしい、スピードを上げて迂回するように走れ」

男の声はインカムを通じ、運転席のスピーカーから仲間に伝えられた。
運転手は男のいう通りアクセルを踏み込み、残骸を避けるように走る。
男は残骸の辺りを見つめた。

「来る!」

異常な殺気が体を貫く。
次の瞬間残骸と残骸の隙間から、大きな物体が飛び出してきた。
一見してワニのような体をしているが、大きさが尋常ではない。
そしてそれは飛び出すと同時に物凄いスピードでトラックを追いかけてくる。

「ガソリンカイマンだ!増速して振り切れ!」

もはや叫び声となった男の声が、運転手のテンションを上げた。
トラックは車体後部を沈ませながらガソリンカイマンを振り切ろうと試みる。
ガソリンカイマンとはワニの変異種と思われるバイオニック(生物変種)だ。
体長は裕に15メートルを超え、体内で作られる可燃物質を用いた火炎放射も行う。
驚くべきはそのスピードで、水中でなくても行動速度は時速60キロは出せる。
体は金属のような堅いうろこに覆われていて、自動小銃の弾ぐらいなら簡単に弾いてしまう。
奴はいってみれば異形の「究極」の一種である。
今の状況でのガソリンカイマンの出現は、男達のとって非常に不利な展開だ。
トラックには荷物が積載されていて、乗客も乗っている。
平坦な道で空荷ならば時速120キロぐらいは出せるが、
荷物を積みコンクリートの残骸が散らばっているようなところでは出せるスピードなど知れている。
加えて全高が高いために重心も高く、派手な動きは取れない。
そして駄目押しで奴には火炎放射という切り札もある。
容易に逃げ切れはしない。
生き残る可能性を増やすには奴の行動を制するしかない。
それも火を吐かせる前に。
奴の強力な火炎放射の前には只のトラックに防ぐ手はないのだ。
そうしたら自分たちは姿焼きで、奴のメインディッシュに並ぶことになる。
男はガソリンカイマンをよく狙い、それでいてがむしゃらに機銃を発射した。
機銃の咆哮が響き、排出された薬莢が荷台の屋根パネルに落ちて弾かれる。
発射の轟音は荷台の中にいる人々の恐怖を煽った。

「ママ、怖いよう」

子供の声に父と母は抱きしめる事でしか応じてあげられない。
彼らには今はとにかく逃げ切るか倒すかを期待するしかないのだ
男が撃った弾はガソリンカイマンの体をしっかり狙っていて、命中した弾は堅い鱗を貫き奴の体液を外へ噴出させた。
明らかにダメージを与えている。しかしカイマンのスピードは落ちる事がない。

「くそ、12.7mmじゃ効かないか!!」

それでも撃つ事を止めない。止めることは出来ない。
今出せるスピードでは逃げ切る事など無理なのだから。
何とか制するしかない。
だが弾帯がチェンバーへ流れ込む速さや噴出する奴の体液の量と、奴のダメージは比例していいないようだ。
それどころか増速の兆しさえ見えた。

「こんな事なら無反動砲でも持ってくるんだった」

男が弱音を吐くのも無理からぬ事だ。
目の前の敵に対し今自分がしうる最高の手段を用いても、相手はそれに対してひるむ様子すら見せないのだから。
体だけでなく目を狙ったりもしているが、ダイヤ並の硬度を持つレンズで覆われた目を打ち砕くことはできない。
そうこうしているうちにガソリンカイマンは男がもっとも恐れる手段を用いた。
口が大きく開き、火炎放射していたのだ。
炎は上あごのから飛び出すと、獲物を襲う蛇のようにトラックへ向けて猛烈に飛んでくる。

「うわあああ!」

人間の本能的な防御で、男は反射的に顔を両腕で被い体をすぼめる。
そんな行為は猛烈な炎の前では全く意味がないのだが。
だが間一髪、距離がありすぎて炎は荷台の後部をわずかにかするぐらいまでしか届かなかった。
とりあえずまた命が延びた。
だが安心している暇はない。
奴はまた攻撃してくる。
さっきは大丈夫でも、今度は駄目かもしれない。
今のかするような攻撃でさえ荷台の後部ドアを黒く焦がし、プラスティック製のテールライトと中の反射版は溶けてその電球が、
崩れ落ちる人間の目玉のようにぶら下がっている。

「クソ!まだ方法はあるはずだ」

男はまだあきらめていない。何とかしてこの状況から脱したい。
例え無だな足掻きだとしても、簡単にあきらめてむざむざ殺されるよりは最後まで抵抗して奴の寿命を縮めてやる。
そんな思いを再び機銃の引き金に込めた。
彼の不屈の精神は、あのような圧倒的な力を見せ付けられた直後でさえ、弾丸をガソリンカイマンの体へと導いた。

「これじゃあどうだ!」

右手で機銃を操作しながら左手で爆弾を、座席にくくりつけたバッグから取り出す。
爆弾はプラスティック爆薬と着火型導火線を使ったものだ。

「また大口開けてみろ、こいつをぶち込んでやる」

口をあけさえるように、口元の辺りを狙って撃つ。
人間にすると唇の辺りに弾は命中し、体液が噴出した。
するとカイマンは大きく口を開けて雄叫びを上げる。

「今だ!」

素早くライターで導火線に火をつけて、口へめがけて投げる。
爆弾は弧を描いてすっぽりと口の中に入った。
と、同時に信管が破裂し爆弾が炸裂。

「やったか!?」

だが奴の前ではそれすら虚しい抵抗に過ぎないようだ。
カイマンは悲痛な声を上げつつも、一向にスピードを緩める気配がない。
金属製のように丈夫な体は表面の鱗だけではないらしい。

「畜生・・」

なおも機銃を撃ちつづけるが、正直な気持ちの中では既に進退きわまったというのがある。
爆弾はあの一回分しか持ってきていない。
弾帯の残りも少なくなってきた。
残っている武器といえば7.62mmのアサルトライフルとサイドアームの9mmオートマティック、それに手榴弾しかない。

「12.7mmでも効かないんだ。こんな豆鉄砲じゃなあ」

仲間はなんて言うか分からないが、男の中では自分の命は今日一緒にいる人達と共に終焉を迎えるものだと認識ができてきた。

「こんな事なら護衛でも頼んでおくんだった」

最期の弱音。
輸送協会に談判してきちんとした護衛をつけていれば、モンスターハンターの力を借りていれば。
そうとりとめない気持ちが弾を撃つ毎に積もっていく。
かつて自分が命を取りとめたのも、モンスターハンターのお陰だった。
強力な戦車、圧倒的な戦闘能力。
化け物相手にひるまない精神力。

「神様、もし少しでも慈悲を与えてくださるなら、どうか彼らを私達の元へお遣わしください」

最期の祈りを神に捧げた時、最後の弾が銃身を駆け抜けた。

「終わったな」

万策尽きた脱力感に覆われる男は、アサルトライフルなどで悪あがきをする力も残っていない。
後は奴が攻撃してくるのをじっと待つのみ。
運が良ければどっかへ行ってくれるかも知れないし、体力を消耗してスピードが落ち逃げ切れるかもしれない。
だがそんな可能性がどれほど残っているというのか。

「おいどうした、銃声が止んだぞ」

運転手の苛立ちを含む声にも満足に応じる気がしない。

「弾は既に撃ち尽くした。爆弾も使った。もう出来る事は何もない」
「何を言っている、小銃でも手榴弾でも残っていないのか?」
「そんなものが通じる相手ならとっくに倒しているさ。あとはお前が逃げ切れるかどうかだ」
「おいしっかりしろ!ちゃんと戦え、おい!」

運転手の呼びかけに答える気持ちは完全に失せ、男はインカムのヘッドセットをはずした。
そしてポケットから煙草を取り出すと、さっき導火線に火をつけたライターを使った。

「ふーっ・・・」

最期の一服。今日は最期が多過ぎる。
ガソリンカイマンはしつこく追ってきていて、もう目と鼻の先。
もう無理だろう。よくやった方だと思う。自分では。
既に神に祈る気持ちもない。

「明日の朝刊を飾ってしまうな。もっと良い飾り方にしたかったが」

煙草の先端を見つめながら男はやがて人生を顧みる。
人が死ぬ間際に見る走馬灯。
それをなんとなく自分の意思でやりはじめた。
もう死ぬんだと思うと最期になんとなくやってみたくなったのだ。

「本当に今日は最期が多過ぎる」

だが男は、いや今この定期便に乗っている全員が神のわずかな慈悲に授かれることにまだ気づいていない。
男が捧げた最期の祈り。
それが通じたのだろうか。
後方から猛スピードで土煙が近づいている。
それは猛々しい鋼の獣。
唸るエンジン、地を駆るキャタピラ。
昂ぶる鼓動、狙う瞳、そして

裁きを下す指

雷鳴にも似た轟音が響き、一筋の光がガソリンカイマンの体を貫いた。
それまでにない程の悲痛な叫びが奴の口から発せられ、噴水のように大量に体液が吹き上がる。
男は何が起きたのか分からなかった。一体どうなっているのか。
既に命をあきらめていた者に使わされた神の使いなのか。
男は目を凝らして、後方の土煙を見つめた。

「神の使いなんかじゃない、悪魔と契りを交わした奴らだ」

男の口元が思わず緩んだ。
ガソリンカイマンを射貫いたのは、モンスターハンターの戦車が発射した砲弾だったのだ。

「エイブラムスか。誰かは知らないがこれで助かるな」

男は一気に光の中へ送りこまれた気分だ。
ガソリンカイマンはヨロヨロとしていて、既に勝敗は決していた。
だがやはり生き物の定めか、今度は戦車へ鼻面を向けて戦おうとする。
するとそこへ、とどめの一発が飛来した。
そして再びガソリンカイマンの体を貫ぬく。
鼓膜が破れそうなほどの激しい悲鳴。
サイレンのようなその大きな叫び声に、男は思わず耳をふさいだ。
断末魔もやがて途切れ、大きな体は荒れた土地へと沈んだ。

「助かった、助かった・・・!!」

男ははずしたヘッドセットを再びつけた。

「おい、聞こえるか」

運転手に呼びかける。

「どうした、何があったんだ?物凄い音と叫び声がしたぞ」
「モンスターハンターが助けてくれた。俺達は助かった!」

男は狂喜した。
両手を上げて、シートベルトで固定された体を揺さぶって。
気分が軽くなり、生まれ変わったような気分である。

「定期便へ、こちらモンスターハンターのハルト・ミル。応答してくれ、大丈夫か?」

共通周波で戦車から呼びかけられた。

「こちら定期便、以上はない。ボディが少し焦げたがみんな無事だ!」

男は戦車へ向けて大きく手を振った。
戦車はすぐにトラックに追いつき、左側を並んで走りはじめた。
再び無線で話しかけられる。

「とりあえず町までこのまま護衛する」
「了解した、ありがとう、ありがとう」

戦車へ向かってまた手を振った。
すると砲塔のハッチが開き、中から一人の男が顔を出した。

「今ハッチから出てきた貴方がハルト・ミルですか?」
「いや、私はメカニックのミサキ・ジュカです」

メカニックの男は笑顔で答え、男へ向かって親指を立てて見せた。

「お兄さん、さっきは見せ場がなかったけど、あたしも一応そこの二人の仲間よ。右側を見て」

女の声が無線に入ってきた。
声の通り戦車の反対側を振り向くと、一台の高機動車がやはり並んで走っている。

「あたしはソルジャーのハルナ・ロッポ。よろしくね、お兄さん」

屋根の上のハッチを空けて、女が顔を出し手を振った。
男もそれに答えて手を振った。
運転席に誰もいないからCユニットの自動操縦らしい。

「それにしてもよく気づいてくれたね」

今度は男から話しかけた。

「たまたまさ。ガソリンカイマンに追いかけられているトラックを見かけたから。運がよかったよあんた達」

そう、本当に運が良かった。
男はまた命を拾う事ができた。

「モンスターハンター、ハルト・ミルか。恩人の名前だ、覚えておかなきゃな」

荒涼とした平原を走り抜ける戦車という獣。
それを駆る獣使い。
人々は彼らを尊敬と畏怖の念をこめてこう呼ぶ。
モンスターハンターと。



琥月の感想

いいですねぇ。
なんかかっこいいです。
ほんとの作家が書いたみたいにできてます。
この話しではハンターたちが出てきましたね。
これからどうなるんでしょう、気になりますね。(^^;
virgoさんありがとうございました。m(_ _)m

あと、これはvirgoさんから来た小説をちょっと手直ししています。
僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。
まだおかしい所があれば言ってください。

virgoさんへの感想はこちらです
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