METAL MAX 〜The Wild Abrams〜

    〜エイブラムス駆ける〜    Aパート

作:virgoさん


鉄色の空間に、一両の戦車がその体を納めている。
高さ約10メートル、250平方メートルの空間。
戦車使いであるモンスターハンターたちには欠かすことのできない場所、戦車ドック。
ハンターたちはここで愛車の体を癒し、次の稼ぎへと去ってゆく。
帰ってくるものは大勢いるが、帰らぬ者も多い。
他の町へと流れているのか、荒廃した大地に墓標を刻んだのか。
少なくとも今整備を受けている戦車、「エイブラムス」とその主はここ、グラスシティの戦車ドックに帰ってくるだけの命を持っている。


「チェック。SABOT、HEAT。クリア。チェック」

「FCS、自己診断プログラム、パワーマネジメント、クリア」

エイブラムスの操縦手席でハルト・ミルはノートPCを開き、接続した端子から送り込まれる愛車のメンテナンス・データに目を張っている。
ハルト・ミルにとって愛車に施されたコンピューター大仕掛けが、彼の仕事の成否、いや彼の生死を左右するから、
意識せずとも気持ちが13インチの液晶画面に集中する。
エイブラムスには大破壊以前で、おそらく最高のものと思われる電子装置が搭載されているのだ。
この電子装置(今の時代ではCユニットと呼ばれる)は、詳しく言うのは面倒だが、要するに上手く大砲の弾を当てたり、
エンジンやトランスミッションを制御したり、といった事ができる。
大破壊により電子技術は衰退の様を見せたが、幸い一部では非常に高度な技術が継承されて今は大学で学ぶことができ、
又発掘によってさらに高度な技術を得るための術も見つかりつつある。
そんなわけで、ハルト・ミルは憂えることなく愛車を戦いに駆ることができるのだ。

「相変わらず大分派手にやったんだな」

ドックのコンピューター端末の画面を見ていたこのドックのメカニック見習い、ユーリ・ハルトフは言った。
ユーリの声はインカムを通してハルトが着けている、ヘッドセットのスピーカーへと届いた。

「俺は何事も激しいのが好きだから。ついな」

ハルトは冴えない言い訳をした。
Cユニット及び戦車全体のメンテナンスには、ドックにあるメンテナンスサーバが重要である。
エイブラムスの場合、砲塔のハッチを開けて車長席にある主統制装置、ミサキ・ジュカが戦闘時にシステム管理に使っているもの、
それにサーバからの端子を接続してメンテナンスを行う。
Cユニットは戦車全体を統合的に管理しているから、Cユニットのデータを見ないことには戦車の状況はわかりにくい。
また激しい戦闘は各部品にズレや歪みを生じさせ、それがCユニット本来の性能を削ぐことも大いにある。
それらをきちんと調べ、直すにメンテナンス・サーバを用いることが最も効率がよい。
ユーリはメカニック見習いだが、コンピューターに関する技術と知識では親方に比肩する。
彼はサーバが集めたデータ、射撃履歴や燃料供給装置の初期設定値との狂いなどでそのハンターが、
どんな乗り方をしていたのかを知ることができる。
一つ一つは単なる数字だが、それも集まればハンター一人一人の戦闘傾向も見えるのだ。
ハルトの場合はどちらかというと、スピードを出しがちでFCSのオートバランサーに頼よる部分が大きい。
射撃の時に一旦停車して、射撃を行い・・・というタイプではない。
ミサキはさぞかし大変だろうと思う。
オートバランサーは自動的に砲を修正してくれるが、移動速度が早ければそれだけ修正動作も激しくなる。
特に近距離の場合は旋回速度が速くなるから砲塔内の人間は振り回されることになる。
そんな中で主統制装置を操るなど、ユーリだったら直ぐに車酔いを起こし、砲塔内は吐瀉物の臭いで充満するだろう。
そんな環境は一分でもごめんだ、自分はハルトのメカニックにはなれないとユーリは思う。
一方ユーリの親方、グラスシティの老舗ドック「ロッソテクニカ」の主人であるサブロー・ロッソは
エイブラムスのエンジンカバーを開けて、獣の心臓にメスを入れている。

エイブラムスは本来はタービンエンジンなのだが、メンテナンスに手間がかかるので一般的なディーゼルに換装されている。
最高出力2700馬力を誇るスーパーチャージャー、ターボ併用のディーゼルエンジンは実はサブロー親方のオリジナル。
と、言っても実際に作ったのは勿論親方個人ではない。
グラスシティから南へ15キロ下ったところにキロポストという町がある。
そこにはこの辺では屈指の鋳造工場があり、そこへ親方が自分の設計図を持ち込んで製作したのだ。

このオリジナルエンジンは「ROSSO-K」という名前が付いている。
「ROSSO」は親方のロッソ。
「K」は異邦の言葉「Kompressor」からきていて、意味は「過給器」。つまりスーパーチャージャーとターボの事を示す。
ハンターたちの間では「ロッソ」と呼ばれていて、人気のエンジンとなっている。
「ロッソ」発売以前は「ロケットカルメン」というエンジンが人気だった。
50トン級の戦車でも文字通りロケットのような加速が味わえるからだ。
ロケットカルメンは最高出力2000馬力。フラットトルクに加えて2500回転を過ぎた後のパワーの盛り上がりが強いので、
ここ一発の離脱には強い。
「90式」や「ホワイトタイガー」などのモデルに乗るハンターはこぞってロケットカルメンを買い漁った。
ちなみにスティングレーなどになると車重が軽すぎて、全体のバランスが取りにくい。よってこれらの「中重量級」以下の戦車に乗るハン
ター達には、ロケットカルメンを多少デチューン(最高出力をおとすチューニング)を施し、
逆にトルクのフラット化を行って搭載するのが今も定番となっている。

「ロッソ」はロケットカルメンを700馬力も上回り、さらにトルクも四周りぐらい厚い。
当然加速は相当鋭くなり、「ロッソ」発表直前にロケットカルメンを買ったハンターからは、少なくない恨み節が聞こえた。
ただ「ロッソ」には欠点がある。
その大出力により、トルクコンバーターも含めたトランスミッション一切合切を専用のものにしなければならない。
よって換装費用は工賃込みで10万ゴールドを越えてしまう。
ハルトはさらに起動輪なども交換しているから、総費用はさらに2万ゴールドほど上乗せされる。
それだけの価値はあるのだが、実際に出すのは相当の金持ちハンターか、俗に「タンクシンドローム」と呼ばれる極端な戦車愛好家ぐらいだ。
ハルトは確かに金は持っていて、間違いなく後者の精神を持っている。
親方が「ロッソ」を整備するのは親が自分の子供の面倒を見るようなもので、彼の目は「ロッソ」のどんな些細な傷も見逃さない。

「ハルトめ、相変わらず飛ばしてるな」

スーパーチャージャーとクランクシャフトをつなぐチェーンを交換しながら、若く血の気の多いハンターを案じた。

  「若者が力を得ると、無闇にそれを使いたがる。でもそれが本人の足下をすくうこともある」

これは親方が自分の経験から得た教訓だ。
もっとも、彼が若い頃どこで何をしていたかは誰も知らない。
今もメカニックなのだから当時もメカニックだったのか。
いや、コンピューターに関する知識からすると、ユーリと同じように大学で学んでいたに違いない。
実はハンターだったのでは。
トレーダーの可能性も。
様々な勘ぐりが入るが、親方はどこ吹く風でだんまりしている。
メンテナンスは朝8時に始まり、夜7時まで続いた。


作業を終えたその日の夜、ハルト、ミサキ、ハルナの3人はロッソテクニカから歩いて10分ほどにある自分たちの宿の一階、
「ハンティング」というバーレストランに集まっていた。
宿にはロッソテクニカに戦車を預けているハンターが数多く投宿し、
彼らの間では「ハンティング」で酒を酌み交わすことは一つの社交儀式みたいなものになっている。
今日も15人ほどのハンターが知り合い同士も知らぬもの同士も、酒を飲んでは互いの武勇伝に耳を傾け、歌を歌うものもいる。
3人は入り口から一番離れた丸テーブルに座り、チキンフライを肴に話をしている。
笑い話もあるが、主に今後の活動の事である。

「最近大きな獲物が少ないよね」

ハルナはチキンの油が付いた唇をナフキンで拭いながら言った。

「そうだな。最近は精々が2万ゴールドだ」

ミサキも同意した。
こんな会話は一般の人が聞けば「不謹慎だ」と憤慨するだろう。
山賊やモンスターに親類家族を殺された人々は、後の人生を後悔と悲しみで過ごすことが少なくない。
そんな人々にとって、それら悪漢と異形の化け物(総じてモンスターと呼称されることが多い)の絶滅は切なる願い。
しかしハンターは普通の人と考え方、感じ方が違う。
彼らはモンスターと命がけで戦いながら、それらが存在し続けることを実は願っている部分があるのだ。
勿論そんなことを口にするものはいないし、力無く倒れた人々の姿に怒りを感じるものが大半であるが、
現実としてモンスターが存在することにより彼らは稼げるのだし、
何よりそれらと命がけで戦うことがハンターにとってはアイデンティティ、彼ら個人個人の存在意義となっている。
単にそういう職業があり、それに就いたと言うことではない。
戦いは彼ら自身であり、戦いが無いと彼らは自己の存在を自分で認識できないのだ。
そしてより高額な懸賞金が掛けられる、つまりより強い獲物を狩ることは彼らの自己認識をさらに強める。
水が留まると濁るように、ハンターは獲物を追い続けないと腐ってしまう。

「明日またハンターオフィスに行ってみよう。何か高額な手配がかかっているかも知れない」

ハルトはウィスキーをグイッと喉の奥に流し込んだ。

彼にとって賞金を稼ぐというのは、彼自身だけの問題ではない。
彼の母親、ナナコ・ミルは長らく病の床にいる。
後天性の肺の病だが、詳しいことはまだ解っていない。
発症したのは6年前、ハルトがハンターになる前である。
当初は単なる肺炎かと思われたが、心肺機能が著しく低下し、ベッドから起きあがるのはままならなくなった。
一時は吐血をし、生命の危機に瀕したが現在はなんとか小康状態を保っている。
母が病気になった時、ハルトは家具職人をしていてそれなりの収入を得ていたが、
これからいくらかかるかも知れない医療費の事を考えると、もっと多くの収入を得る必要がった。
それで一念発起、銃砲店で購入したアサルトライフルと自分の4輪駆動車でモンスターハンターを始めたのである。

「エイブラムスに見合うだけの獲物がほしいな」

ハルトはテーブルの木目を見つめながら言った。
母の医療費を稼ぐのが基本的な目的でも、今は心の底からモンスターハンターである。
ましてや彼の駆るエイブラムスは、トップレベルの性能を誇る。
ハンターとして、戦車乗りとして、これに見合うだけの強さと賞金を持つ獲物に飢えて何の不思議があろうか。
宴が終わるとはミサキは自室に戻ってすぐに寝た。
ハルトはPCにダウンロードしたデータを見ながらエイブラムスのチューニングを考え、それをまとめてメールで親方に送ったあと床に就いた。
ハルナはいつもと同じ、睡眠前に銃の手入れをするのだ。
それぞれの夜は更けていった




「なかなか可愛いじゃないか。どこで仕入れてきた」

濃いグレーのスーツを着た男は、どことも知れぬ地下室で仲間と思しきもう一人の男とともに、5人の少女たちを眺めていった。
少女たちは10〜13歳ぐらいで、体の自由がきかぬように手足をビニールひもで縛られている。

「貧しくて子供を十分に養えない親は沢山いる。仕入れるのは難しくない」

グレーの仲間、グリーンのジャケットを着た男は言った。
少女たちは例外なく涙を流し、命を取らぬよう懇願している。

「安心しろ。お前たちは大事な商品だ。殺すなんて無粋なことはしない」

グレーのスーツはポケットから煙草を取り出すと、煙をくゆらせ始めた。

「こいつらをどこへ捌くんだ」

グリーンが質問する。

「今のところイル・ミグラの市議会議員、サンタ・ポコの医者が欲しがっている。それより面白いものがあるぞ、見るか?」

グレーはそう言うと、自分の鞄の中からディスクをとりだした。

「なんだそれは」

「とりあえず見て見ろ」

フロッピーをドライブに挿入し、ロードを始めた。
ビデオプログラムが自動的に作動し、画面にはどこかのベッドルームが映った。
感じからすると部屋の上、全体を見回せるところにカメラはあるらしい。間違いなく盗撮だろう。
豪華な部屋だ。ベッド、絨毯、壁に飾られた装飾品。一体何万ゴールドするのだろうか。
その部屋へバスローブをまとった一人の中年の男が、手足を縛られた14、5歳ぐらいの少女を引っ張るようにして連れて入ってきた。
少女は相当いやがっていて、怒鳴り、なじり、泣いている。
男は構わず少女をベッドへ投げ出すと、まるでプレゼントの包装を破るように少女の衣服、薄汚れたワンピースをはぎ取り始めた。
そして全裸にすると自分もバスローブを脱ぎ、少女の脚の間に自分自身を沈めた。
少女の叫び、いや悲鳴はさらに大きくなり、激しく痛がった。
グレーはその映像を、口元をゆるめながら見ている。
グリーンは顔を歪めて画面から目を反らした。

「こんなもの、どうする気だ?」

「アフターサービスだ。もしお望みならさらによりよい商品をお届けしますってな。この映像を見せれば割り増し手数料をくれるだろう」

グレーは話しながらも画面から目を反らそうとはしない。
中年の男は腰を振りながら顔や胸、脚を舐めた後、少女の首に手を回して締め付け始めた。
それとともに彼の腰の動きは早さを増す。
やがて男は絶頂に達した。同時に少女はグッタリとなり、以後動くことは無かった。
グレーは映像を止めた。

「彼、カナベルの町長なんだが、この手のプレイが好きらしい。先月、先々月と続けて依頼があったからおかしいと思ってたんだ」

グレーはフロッピーを取り出し鞄に戻した。

「ま、俺もああいうことをやりたい気持ちは分からないではないがな」

彼は少女たちに歩み寄って一人の前で止まった。
この中では一番幼い、10歳ぐらいの少女だった。
目が大きくとても綺麗な顔立ちをしている。
だが、笑うと可愛いであろう彼女の顔は、涙で崩れている。
グレーはその顔を見ながらまた口元をゆるめた。

「この子は納品の前に調節が必要だな」

グリーンはその言葉の意味を解すると、頭を振りながら部屋を出ていった。




エイブラムスはすこぶる好調だった。
ロッソテクニカのメンテナンスを受けたのだから当然といえば当然なのだが。
だましだまし使っていた亀裂の入ったトーションバーを交換したから、車体姿勢の安定も高まった。
トルクコンバーターのフルードも交換したから、加速もスムーズになっている。

「よし、手近なターゲットを探そう。テストバトルだ」

ハルトは旋回カメラを操作して、化け物の姿を探した。

「11時の方向にスローウォーカーがいるわよ」

高機動車に乗っているハルナがインカムを通じて知らせた。

「よし、目標はスローウォーカーだ。ミサキ、戦闘立ち上げだ」

「了解した」

ハルトはサイドスティックを前へ深く倒し、エイブラムスを加速させる。
スローウォーカーは体長50メートル、高さ10メートル、幅10メートルの巨大な「亀」だ。
いや、正確には亀のような姿をした何かである。
奴は生き物なのか機械なのかさえ解らない。
見た目は間違いなく生き物だが、口の中に筒状の物を備えていてエネルギー弾(?)を発射してくる。
分類的にはサイバネティック(変異した生物が無機物を取り入れたもの)らしい、と一応はなっているが。
一つはっきりしていることは、こいつを倒すと1万5千ゴールドになるという事だ。

「60マイルまで15秒か。なかなかのタイムだ」

ミサキは主統制装置のモニターを見ながら言った。
やはりトルクコンバーターフルードの交換が効いている。
親方はスーパーチャージャーのチェーンとターボタービンも交換していたから、過給が素早く行われているようだ。
ユーリがしてくれた燃料噴射のセッティングも、それらに合わせたものとなっている。

「もしかしたら最高速度も5マイルぐらい高くなっているかも知れない」

ミサキは思った。
戦車はスピード競争をするわけではないから、別に最高速度が高くなったからと言ってどうということはない。
ただそれだけエンジンとトランスミッション、起動輪と履帯のセッティングが合っているということである。
自動車(戦車は「戦」かう「車」である)にとってそれは大事だろう。
エイブラムスは土を中へ舞わせながら、スローウォーカーに向けて急速に接近する。

「そろそろやってみるか」

ハルトはファイアリングスイッチをONにした。
それにより装着しているHUDヘルメットの動きと、砲塔の動きがシンクロする。
またHUDの主映像が照準機のものに切り替わり、正面映像が右の隅に映し出された。
ハルトはスローウォーカーを目で追い続け、そしてトリガーボタンを一回押した。
FCSは目標をロックオンし、自動的に砲塔を旋回させ仰俯角を調節して追尾し続ける。

「ハルト、車体を振ってみてくれ」

「わかった」

ミサキに言われたとおり、ハルトはサイドスティックを左右に倒して蛇行を始めた。
目標追尾能力を調べるためだ。

「申し分ないな。よく追いかけている」

ミサキは満足げ表情を浮かべた。
だがハルトは目の前の景色の変化を見ると、ミサキとは反対に顔をこわばらせた。

「やばい、野郎こっちに気づきやがった」

戦車の調整に気を取られているうちに、スローウォーカは巨大な体躯をエイブラムスの方へ向けていたのだ。
そして口の中の大砲が、奥の方でオレンジ色の光を放ち始める。

「来るぞ、散開!」

言うのが速いかエイブラムスと高機動車は素早く左右に散り散りになった。
丁度タイミングが前後して、スローウォーカーのエネルギー弾が飛来。
光を放ちながら飛ぶエネルギー弾は、地面に着弾すると地面をえぐって土が空に舞い上がった。

「遊んでいる暇はないな」

ハルトは自動追尾を確認すると、トリガーを引く。
薬室に装填されていたSABOT(正式名称:翼安定装弾筒式徹甲弾)は、150mmスームーズボアガンの砲身を雷鳴とともに駆け抜ける。
砲身の外に出るとSABOTは装弾筒を脱ぎ捨て、ロケットのような体を一直線にスローウォーカーへ向けて突進。
トリガーを押して一秒かかるかかからないか、砲弾は亀の甲羅を突き破り、右前足が地面へ倒れ込んだ。
しかしさすがにまだ死んではいない。

「さっさととどめを刺すよ」

ハルナはエイブラムスと同じ、HUDヘルメットを使って屋根の上のミサイルを操作し目標に照準をつけていた。
目標が地面に倒れ込むのを見て、ミサイルを発射。
ミサイルはSABOTが穴を開けた場所にすっぽりと入り、その後体の中からスローウォーカーを喰い破る。
巨大な亀の骸が、奴自身の墓標となった。

「よし、目標撃破」

ハルトがチームメンバーに伝えた。
これらの戦闘は全て、ハンターオフィスが装着したビデオディスクに記録される。
ビデオディスクにはHUDの映像と同じものが録画されていて、日時、GPSの座標なども記録されている。
このビデオディスク装置は封印されていてハンターオフィサーだけが操作でき、オフィスに行くとこのディスクを開封し、
検査して作業料(とハンター達の間では呼んでいる。要するに賞金)を貰い、新たなディスクを装填して再び封印するのだ。

「よし、グラスシティに戻ろう。今回の戦闘データを親方達に見せよう。あとオフィスで作業料を貰って、賞金首をしらべてと」

ハルトはエイブラムスを旋回させて、再びグラスシティへと向かった。



「これも・・ダメ。これも・・・いまいち」

ハルトはハンターオフィスの端末で賞金首のページをめくりながらつぶやいた。
賞金首とは特に誰かが賞金を掛けたモンスターのことである。
まず何らかの被害、これは人でも異形でも構わないが、その被害を排除したい個人なり自治体なりがハンターオフィスに届け出をする。
この届け出には「どこで誰によってどんな被害が、成功報酬はいくらか」という項目を記載。
ハンターオフィスはこれらを審査し、問題がなければオフィスのサーバにメモリーし、
ハンターは各地のオフィスにある端末でこれらを検索して、任意の賞金首を選んで倒し賞金を得るのだ。
農地を食い荒らすサイの化け物に、輸送途中の宝石を強奪した強盗団。
珍しいところではモンスターハンターになりふり構わず戦いを挑む、般若のマーキングをした61式というのもある。
だがどれも賞金がいまいち。1万ゴールドを越えるものは少ない。
現在地からの距離にも違うが燃料を使って遠出して、それで1万ゴールド以下というのはちょっと割に合わない感じがした。
優れた戦車というのはそれなりに経費もかかるもので、とりわけ燃料代は切実な問題なのだ。
それらを差し引いてさらに母の医療費を払って、自分の生活費もある。

「ダメみたいだな」

賞金首のページを閉じた。
どれもこれもグラスシティからは距離がある割には安すぎる。

「依頼のページもみてみようか」

ハルトは依頼のページを開いてみた。
依頼とは護衛、輸送、偵察など特定の任務をハンターに依頼する項目である。
任務達成目標も様々で「自宅の警護も頼む」というのもあれば、
「企業秘密が盗まれた。犯人を捜し出して情報もろとも抹消してほしい」というのもある。
こちらは胡散臭いぶん分がいいのだが、ハルトは駆け出しの頃に一時期やっただけで今は殆ど見ていない。
単に命の危険があるというだけでなく、社会的な意味で危険な仕事も多いからだ。
平たく言えばここにある任務を成功させたために、その後暗殺者に狙われ続けるというケースもあるということ。
こんな荒廃した世界でも、人は恨み、逆恨みは忘れないらしい。
ハルトは検索を続けていると、一件の情報を見つけた。


「求む美術品輸送警護。イスラポルトからサンタ・ポコ及びイル・ミグラまで。各二組ずつ。
 イスラポルトに来るまでの燃料代と目的地までの燃料代は完全支給。弾薬使用時はそれも支給。成功報酬一組につき10万ゴールド。
 連絡は直接以下のアドレスまで。israportart@・・・〜イスラポルト・アート商会〜」


これは良い条件の話だ。
ただ良い条件というのはたいてい裏がある。
とりあえずこの「イスラポルト・アート商会」という会社を調べてみないと。
ミサキならもしかしたら知っているかもな。
ハルトは情報を自分のPCにダウンロードすると、PCをたたみオフィスを後にした。
そしてミサキとハルナが待つロッソテクニカへと向かった。



今の季節、カナベルの町はカラフルな旗とにぎやかな音楽で満たされる。
広場や通りには沢山の出店が並び、朝から夜遅くまで人々は歌い、酔い、笑いながら語り合う。
年に一度の「起源祭」だ。
これは幾多の危険を乗り越えてこの地に着き、開拓して町を異形や山賊から守り続けてきたカナベル開拓民を祝うためのイベントである。
最初は一部の人々が行う小規模な「持ち寄りパーティー」であったが、いつしか町全体のお祭りになった。
最近ではこのお祭りを楽しみに、外からやってくるトレーダーやハンターもいるから年々その規模は大きくなっている。
特にトレーダーは自分たちが楽しむだけでなく、ちゃっかり商売もしていく。
カナベルではなかなか手に入らない海魚やみかんなどを保冷車に乗せて運んできて、年に一度の「お祝いの品」として町民相手に捌く。
しかしだからといって無闇に高額な値を付けないところがトレーダーらしいところだろうか。

信頼を大事にする彼らは、目先の欲でプレミアをつけることを「恥」とする習慣がある。
消費者とはあくまで誠実な取引で関係を保つべきで、それがつもりつもれば結局は豊かさになると。
だが習慣に忠実でなく、トレーダーと言うよりは「商人」という趣の者も最近は少なくない。
最もそのような人間はこのようにこつこつとやるよりは、一気に大きく稼ごうとするから高額で取り引きされる貴金属や美術品、さらには
麻薬などに手を染める傾向がある。
よって幸いなことに、カナベルのイベントには善良なトレーダーしか集まらない事になる。
さて、そんなカナベルの町の一角に、大きくはないが威厳ある造りの建物がある。
カナベルの町役場だ。
町役場は煉瓦の3階建てで、デザイン的にはシンプルだがそれ故見る者に安堵感を与える。
その町役場の3階で最も広いスペースをとる部屋が、カナベル町長執務室。
床には毛足の長いベージュの絨毯。
やはりベージュ色をした革張りのソファーにガラステーブル。
壁には大破壊前の美術館の遺跡から発掘されて絵画が飾られている。
本棚には歴史書や法律書が並ぶ。
そして窓に背を向ける配置で、町長の机が置かれている。
深い赤みを帯びた大きな机に、大きな背もたれのレザーチェアー。
大破壊前の映画に出てくる、大統領のデスクのようだ。
町長はそのチェアーに体を預けて、窓の外の様子を見ている。

大通りには街路樹のように出店が並び、人々で賑わっている。
あまりに人出が多いので、普段は通行に困ることのないハンターの戦車やトレーダーのトラックが、人波にもまれている。
警官は車両の通行をスムーズにしようと一生懸命笛を吹き、誘導棒を振るが一向に回復しない。
歩くより遅く進む戦車の操縦手ハッチからはハンターが顔を出して外の様子を見ているが、もはやあきらめ顔をしているように見える。
この時期に大通りを車でスムーズに走ろうというのがどだい無理なのだ。
まあ、普段は化け物共と死闘を繰り広げながら猛スピードで飛ばしているのだから、
今日ぐらいはゆっくり走っても良いのではないか、と町長は思う。

「さて町長さん。話をしましょうか」

町長は男の声を聞いてチェアをソファの方へと向けた。
ソファには濃いグレーのスーツを着た男が座っていて、煙草の煙をくゆらせている。

「で、何が望みだ」

町長の平然とした態度には、どこかぎこちなさが見える。
まるで動揺を隠すかのように。

「まぁ、要はお金を頂きたいんですけどね。別にゆすり取ろうとかそういう話ではありません。私は町長のお望み通りの商品を、
 なるべく早く手配しようと言っているんです。ただこう立て続けに注文されますと、こちらの方もなかなか大変で。
 バックオーダーの問題もありますから。そこで今回からは割り増し手数料を頂きたいと」

「その引き替えがあのディスクかね」

「あれはあくまでも町長への親切心からです。いつ何時、町長のプライベートを探る輩がいないとも限りません。
 ご注意していただこうという、まあ、お節介みたいなもんでして」

「本当にお節介だな」

町長は再びチェアを回して窓の方を向いた。
男は確固たる自信を誇るかのように、煙草の煙を天井へ向けて放った。

「いいだろう。君に手数料を払おう。それで、いくら出せばいいのかね」

「はい、恐れ入ります」

グレーはジャケットの内ポケットから電卓を取り出すと、ポンポンと軽くキーをたたいた。
多分計算するまでもなく、額は決まっているのだろう。

「このくらい頂きたいと思うのですが」

グレーは窓の外を向いている町長の目の前に、電卓を差し出した。
町長は電卓の表示を見て、一瞬男を睨んだ。

「5パーセントとは随分高いな。これなら性能の良いCユニットが買えるぞ」

「私どもの商品にはそれだけの価値があるかと思います」

町長は一つ大きくうなり、一つ大きなため息をついた。



ハルトは前の日にユーリと酒を飲み過ぎた。
今日は毎朝欠かさないトレーニングをする気も起こらず、ひたすらベッドで寝ていたい気分だ。
思い頭を起こして時計を見ると、午前8時を過ぎたところだった。
まだ起きることはない。
ハルトが再び夢の世界へ旅立とうとしたとき、ドアのノックが現実世界へ引き戻した。

「一体誰だ?」

体が思うように動かず、ドアロックを外すのも一苦労。
脚を引きずり、腕は重力にされるがままだ。
ようやっとの思いでドアのところまで行き、指をロックにかけた。
その間もドアは太鼓のように鳴り続けている。

「ハルト、いつまで寝ているんだ?」

ドアの外には愛すべき仲間、ミサキが立っていた。
彼はハルトにとって欠かすことのできない仲間だが、今は彼の存在が非常に煙たい。
いったい何なんだ、こんな朝早く(通常では既に起きている時間)に俺をたたき起こす用事とは。
ハルトは頭の中で呆然とそんなことを考えた。
多分まだ睡眠状態が脳の大半を占めていたのだろう。
そんなハルトにはお構いなしに、ミサキは開けられたドアから部屋の中へ入り、ベッドの横の椅子に座ると机の上に封筒を置いた。

「何だ、それは」

ハルトはゆっくりと起き始めた目を封筒へ向けた。

「お前が言っていたイスラポルト・アート商会を調べてみたぞ。これがその資料だ」

ミサキは封筒から何枚もの書類を取り出すと、一番上のものを差し出した。
それにはイスラポルト・アート商会がいつ、誰によって、どんな業務で、どのくらいの資本で、設立されたかが記載されている。

「ふーん、大破壊以前に美術品を発掘し、それを売る仕事ね。今の時代美術品を欲しがるのは余程のお大尽だから、
 相当ふっかけてるんだろうな」

書類に目を通しながらもハルトの手は自然と机の上の水差しに伸びて、水をコップに注いだ。
それを一息に飲むと、ふーっと一つ息を吐いた。
本格的に脳が起き始めたようだ。
幸いにして二日酔いもないから、いちど脳が目覚めると頭の回転は素早く思考するはずだ。

「で、他の資料はなんだい?」

ハルトが欲しいのはこういう気質の情報ではなかった。
確かに美術品は高額で取り引きされるから、それだけ高い報酬は出せるだろう。
ものがものだけに、輸送に気を使うのは当然だ。
だが、ハルトのカンはそれだけでは無いと言っている。
それがただの思い過ごしか否か、確認したかった。
ミサキは別の資料をまとめて差し出した。

「あとはイスラポルト・アート商会が扱った美術品のファイルだ。全てではないだろうが、可能な限り遡って調べてみた。
 ニュースソースは輸送協会のファイルだから、信頼できるはずだ」

「で、気になる事はあったか?」

「まあ当然かもしれないが、運ぶときは専用の車両を使っている。それと護衛にハンターを雇うのも毎回の事のようだ。
 余程儲かっているのか、ハンターへの謝礼は徐々に増えているみたいだな。逆に言えばそれだけ危険と言うことかも知れない。
 ハエを追う蛙のようなモンスター共は別として、強盗団などは狙ってくるからな」

ハルトは慎重にファイルの項目を追った。

「引き受けてみるか」

ファイルは封筒に戻された。



Bパートへ
琥月の感想

バランスさんの小説に続き、ついにvirgoさんの小説第1話が送られてきました。(^^;
編集途中でいろいろと変更があったようで、2回ほど送られてきたのでver.3というとこですか。(笑)
そのため、何度も上書きをしたのでちと遅くなりました。
この編集の仕方はどうにかしないとねぇ・・・

プロローグではガソリンカイマンが出てきましたが、今回はスローウォーカーの登場です。
口から発射されるエネルギー弾が地面をえぐる・・・リアルに想像できました。(^^;

そして、ついに出ました。
怪しい人たち「グレー」と「グリーン」そしてカナベルの町長・・・
そしてハルト達が受ける依頼。
これらがどう関係してくるのか続きが気になりますね。(^^;

virgoさんありがとうございました。m(_ _)m

あと、これはvirgoさんから来た小説をちょっと手直ししています。
僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。
まだおかしい所があれば言ってください。

virgoさんへの感想はこちらです
prev << novelsmenu >> next