METAL MAX 〜The Wild Abrams〜

    〜エイブラムス駆ける〜    Cパート

作:virgoさん


マルクス・ハルトマンは目の前にある満身創痍のエイブラムスを前にして、腕を組みひたすら唸っていた。
彼はイスラポルトにある戦車ドックの一つ、「マルクス&タンクス」の親方である。
ハンターオフィスからの連絡を受け、部下に命じ北の荒野に向けて戦車回収車を出した。
そしてつい10分前に彼らは帰ってきたのだが、これはどうしたものだろうと考えを巡らしている。
まだ詳細を見ていないから何も分からないが、外から見るよりはずっと被害は大きいのではないだろうか。
もしかしたら完全修理には結構な日数要するかも知れない。

引きちぎられたヘッドライトやフェンダー、テールライトは部品があるしその程度のものなら直ぐに自作する事もできるから大丈夫だろう。
問題はマタドールキラーの角が突き破っている左側面の装甲で、もし相当深く食い込まれたとしたならばその部分の装甲を交換する必要がでてくる。
あと砲塔に受けたダメージがFCSにどんな影響を与えているかも細かく調べないと。
それらを完璧な状態まで修理するとなると、やはり1ヶ月は見ておかなければならないだろう。
はっきりとしたことは分からないが、この戦車はつい最近フルメンテナンスを受けたばかりだと聞く。
昨日それで今日がこれとは運がないが、ハンター稼業なんてそんなものか。
メカニック達はサイドスカートを外し、メンテナンスサーバの端子を接続し、外装を細かく見て損害をくまなく調べている。

「調査だけであと2時間はかかるな」

マルクスは一つため息をつくと、事務所へと足を向けた。
事務所では事務員が残業して、部品製造業者に片っ端から電話している。
エイブラムス系の部品ストックを確認するためだ。
商売丸出しのドックなら大喜びだろうが、メカニック上がりで自身が機会(機械)に対し特別な思いを持っているマルクスは、苦々しい気分でいっぱいだ。
あのハルトとかいうハンターは名前を業界の噂で聞いたことがあるだけで、特に親しくはない。
しかし彼の戦車が傷だらけで彼自身もつらそうに体を引きずる姿を見ると、胸が締め付けられるような気分がした。
マルクスの手は自然と机の上の煙草へ伸びる。
濃い味わいのを一本取り出すと、火をつけてゆっくりを煙を吐き出す。

彼にとって煙草は冷静な思考をもたらす頭の薬である。
そうして頭の回転を上げて、傷だらけのエイブラムスを直すのにはどうすれば最も効率が良いかを、算段しなければならない。
ここには多いときで日に80台も戦車がやってくる時がある。
今の人手ではそれをなんとかこなせるぐらい。
そんな中であれだけの破損を直すのには、それなりに頭を使わなければならない。

「彼が新しい戦車を購入するのならば、それが一番早いのだが」

だがそれは無理だろうと思う。
エンジンにしろ、足周りにしろ、攻撃装備にしろ、全てに於いてかけられた手塩を感じる。
彼にとってあの戦車を失うことは、自分の体の一部を削られるのと同じに違いない。

「他のドックへまわすか」

それも難しい事だった。
イスラポルトにある他のドックはここより規模が小さくて、修理は難しいだろう。
近辺にある他の町のドックも状況は似たようなものだ。
イル・ミグラのドックならばここよりずっと良いのだろうが、50トンの戦車を牽引していくにはいささか遠すぎる。
それに考えてみれば客の希望を可能な限界まで追求するのが、マルクスの商売信条だったはずである。
どうやら修理が思いやられそうで、己の本分を忘れていたようだ。
煙草の火を灰皿に押しつけると、ジャケットを着込みドックの裏にある車へ向かった。

ドアを閉め、キーをひねる。
2500cc、V6エンジンは眠りから覚めたことを闇夜に知らせた。
その音を確かめると、マルクスは再び煙草に火をつけた。
不意に、ルームミラーに映る自分の顔が目に入る。
眉間にしわを寄せた難しい顔だ。

「貴方の戦車修理には1ヶ月は見たほうが良いでしょう。総額20万ゴールド前後になる事も考えて置いて下さい・・・か」

ハルトは相当稼いでいるだろうが、それが軽くない出費であるのは間違いない。
しかもその間は全く仕事にならないのだ。

「どのように話せばよいものか」
なににせよ、いつかは切り出さなければいけない事である。
しかもなるべく早い段階で。
迷っていても仕様がなかった。
クラッチを踏み、マニュアルドライブを1速へと導く。
スロットルバルブの開きとクラッチの接続に合わせ、V6エンジンは甲高い快音を慣らしてボディを加速させる。
今日はアクセルの踏み込みがいつもより多いかも知れない。

「こんなスピードでは交通治安隊に捕まるな」

マルクスはせり上がるスピードメーターを見ながら思った。
イライラしたり、落ち込むとき、エンジンの音でそれらを誤魔化したくなる。
今もそんな気分だ。
それで問題は解決しないが、幾分かの精神安定剤ぐらいにはなる。
タコメーターの針が6千回転、7千回転を刻むほど、現実の束縛は自分の心から離れていく。
コーナーリングの時タイヤが慣らすスキールは、程良い緊張感とともにストレスを中和する。
そうこうしていると、車は時を経ずにイスラポルト記念病院に到着した。
ハルトらが収容された病院である。
駐車場に車を止めるが、周りが戦車だらけで何となく肩身が狭い。
夜間入口からそう離れていない壁ぞ(壁沿い)に車を止めた。
一時の快感から現実へと戻ったマルクスは、一つ息を吐くと車を降りた。

「彼は大丈夫だろうか」

ドアを施錠する手に力が入っている。
いつになく緊張しているからだ。
こういう場面は過去にも何度かあったが、ここ1年は経験していない。
それなりに対話術は心得ているつもりだが、そう簡単に慣れるものでもない。
相手は怪我をし、大事な商売道具も大損害。
そこへ巨額の修理費と、修理プランを提示するのだ。
その時の相手の反応は色々ある。
落ち着いた素振りを見せながら、目が虚ろになる者。
半狂乱状態になる者。
突然泣き出す者。
何にしても笑う人間がいるわけはないし、その負担を考えると平然とできる人間もいない。

「でもそれが仕事だからな」
夜間受付に話をすると病室を教えてくれた。

「ハルト・ミルさんとメンバーの方は503号室です」

受付の看護婦に礼を言い、5階へ向かう。
エレベーターに乗り込み「5」のボタンを押す。
こういうときのエレベーターはいやに速く感じる。
あっという間に5階に到着し、ドアが開く。
病棟はまだ眠りにつくには早いようだ。
数人の患者は廊下を歩き、廊下のベンチでチェスをしている者もいる。
エレベーターホール横のロビーでは10人ぐらいが、地元のケーブル局が放送している大破壊前の映画を見ている。
題名は分からないが随分旧式の戦車が沢山でているから、戦争映画のようだ。
映画を見ているのは皆男でそれぞれギブスだの包帯だの巻いていても、ただならぬ雰囲気を屈強な体から発している。
多分皆ハンターなのだろう。この病院は元々ハンターオフィス指定病院であるわけだし。

「確か503号室だといってたな」

ロビーから再び廊下に目を戻し、ドアにかかれている部屋番号を一つ一つ見ていく。

「ここか」

ドアに「503」のプラスティックプレートが掛けられた部屋を見つけた。
念のためにネームプレートを確認する。
確かに"Haluto Mill"とある。

「間違いないな」

マルクスはドアの前に立ち一呼吸置き、それからノックをした。

「どうぞ」

若い女の声で返事があった。多分仲間のソルジャーだろう。

「失礼します」

部屋にはいるとベッドが二つあり、二人の男がベッドに横になっている。
そして入口の横にある椅子に、紺色の戦闘服を着た女が座っていた。
女ははじめドアの方に顔を向けていて、マルクスが入るのを見ると立ち上がった。

「はじめまして。ミルさんの戦車を修理する「マルクス&タンクス」のマルクス・ハルトマンです」

マルクスの言葉を聞くと、女は会釈をした。

「私はハルト・ミルと組んでいるハルナ・ロッポです。手前のベッドに寝ているのがハルトで、
 奥のベッドに寝ているはメカニックのミサキ・ジュカです」

仲間がこんな事になってショックだろうが、随分落ち着いた様子だ。
百戦錬磨のハンターは確かにこんなものであるが。
マルクスはベッドの方へ目をやった。
二人とも心地よさそうに寝息を立てている。

「二人の容態は?」

「二人とも軽傷です。マタドールキラーが衝突した時のショックで頭を打ったとか。
 でもシートベルトを締めてヘルメットを被り、車内にもアブソーブラバーを装着しておいたお陰で大したことは」

「備えあれば憂い無しですね」

マルクスはどのようにして用件を切り出そうかとタイミングを考えた。
こっちがドックの人間だと名乗っているわけだし、ただの見舞いでないことは分かっていると思うのだが。

「それで、戦車の状態はどうなんですか?」

幸いにして、話はハルナの方から切り出された。
容易に話すことができ、マルクスは胸をなで下ろす。

「かなり良くない状態です」

一度始まったら隠し立てせずに率直に話をするに限る。

「左側面の装甲にマタドールキラーの角がかなり深く突き刺さっているようです。
 まだ調べている途中ですが、場合によっては装甲の交換が必要になるかと。あとCユニットへの影響もまだ不明です。
 これも時間を掛けて調べないと」

「どのくらいかかりますか?。時間もお金も」

この質問への答え方が、マルクスの親方としての力量を決める。
丁寧な、落ち着いた口調ではっきりと答えた。

「時間にして1ヶ月は見ていただきたいと思います。修理料金は20万ゴールド前後になると思います」

「そうですか」

ハルナはそれだけしか言わなかった。
20万ゴールド前後という金額に何ら動じないとは。
そんなに金持ちなのか。
それともあの状況のショックからまだ完全に立ち直っていないのか。

「マルクスさん、最終的な料金見積もりはいつ頃終わりますか?」

「え?ああ、遅くとも明日の昼ぐらいまでにはなんとか」

「そうですか。では明日料金を前払いで決済します」

マルクスはまた唖然とした。
明日前払いで決済?明日?しかも動じた様子はない。
この女は本当に冷静なのだろうか。
その落ち着いた言葉に、マルクスの方が動揺してしまう。
もしかしたら自分の聞き間違いでは無いだろうか。
念のためにもう一度聞き直してみる。

「もう一度お聞きしますが、明日前払いで一括決済なのですか?」

「そうです。明日伺います」

聞き間違いではなかった。

「一体彼らはどういうハンターなんだろう」

疑問を拭えぬまま、マルクスは軽い挨拶をして病室を後にした。



時間は遡って、同じ日の夕方。
イスラポルト・アート商会では、同社の依頼に志願するハンターの面接が行われた。
参加したハンターは計10組。
うち選ばれるのは4組である。
ロンド・ボンドもその4組に残るべく、この面接会場に訪れた。

「ではロンド・ボンドさんお入り下さい」

廊下の長椅子に座り順番を待っていたロンドは、背広を着た25、6歳ぐらいの男に呼ばれて一つの部屋の中に入った。
中は400平方フィートほどのそれほど広くない部屋で、窓際には本棚と机がある。
その机には男が一人いて、光を背に浴びている。

「どうぞお座り下さい」

机と向き合う形で置かれた木の椅子にロンドは座った。
すると当然だがロンドとその男は向き合う形になり、視線がクロスする。
ロンドはその時に変な違和感というか、妙な感覚をもった。
今向き合っている男は何というか、ともかく余りよい感じがしない。
身なりはきちんとしている。
背広を着て、見た目にはまっとうな人間に見えるのだが。
生理的なものだろうか?。ロンドにはその答えが分からない。

「ロンド・ボンドさんですね。私はオール・フィールド。この会社の取締役の一人です」

型どおりの紹介が行われ、型どおりの質問が始まった。

「ではこの仕事に志願した理由。勿論報酬でしょうが、あえてこの仕事を選んだ理由を教えて下さい。
 貴方もプロのハンターなら報酬を見てそれなりのリスクを考えたはずです。
 もっとリスクが低くて報酬は安くても確実に稼げる仕事はあったはずですよね。なぜ当社の依頼を希望されましたか?」

あまりにも当たり前の質問。
でもこの質問への答え方が、ロンドの稼ぎに関わってくる。
駆け引きの方法として上手く言うという手もあるが、今回は正直に話すべきだと思った。
ロンドの直感が、今回の場合それが「吉」であると結論づけたからだ。

「ハンターとしての一種の本能みたいなもんです。リスクが高ければ高いほど、その衝動を満たすことができる」

彼は本当にありのままに言った。

「なるほど。典型的なハンターというわけですか。ところで貴方はその衝動を持ちつつも、計算的な行動をとることができますか?。
 私どもの仕事は本能だけの動物に任せられませんよ」

この男は元ハンターではないかと、ロンドは思った。
ハンターを経験し、ハンターという人種を知る者でないとなかなか出てこない質問である。
「勿論、私はリスクを好む傾向を持っていますが、駆け出しの三流ではありませんので。
 そうでなければこの世界は生き残っていけません。あらゆる意味で」

ロンドの態度は飽くまで落ち着いていた。
それはプロとしての自信と誇り、責任感が良く現れている。
とは言っても他のハンターも同じようなものだから、どうやって自分を雇うことのメリットをアピールするかが問題だ。

「こちらからの質問は以上ですが、他に何か質問やご意見はありますか?」

売り込みの機会を与えられ、ロンドは態度を変えずに話し始めた。

「私はこれまで3年ハンターをやってきました。経験豊富なハンターはいるでしょうが、御社の信頼に応えられるのはどれだけいるでしょうか。
 私は今までの経験をこの仕事に費やしたいと思っています。それによって御社の商品が確実に届けられる保障を請け負います」

大した文句は思い浮かばなかったが、後は自分の態度と経歴で総合的に判断して貰うしかない。

「わかりました。どうも有り難うございました。合否の結果は明日の朝九時から当社玄関前に啓示します。
 ご縁がありましたら午後一時までに当社事務所へおいで下さい。お疲れさまでした」

型どおりの文句で面接は終わった。
ロンドは一例をして部屋を退出した。
廊下には例の長椅子に座り、面接の順番を待つハンターが二人いる。

「ライバルだな」

ロンドはふとそう思い、そしてそんな風に思う自分がちょっと可笑しくなって、口元に笑みを浮かべた。
ビルの外に出ると、もう太陽はその姿を殆ど山の峰の向こう側に納めていて、空は紫色になっていた。
駐車場に止めてある愛車の74式に乗り込み、シートに体を納めると一つため息をつく。
それは面接の気疲れによるもので、単純に早い者勝ちの賞金首を狙うなら縁のない事である。

「ま、ハンターも<社会人>だからな」

彼の考えはそうだ。
ため息をつき終わるともう後は戦車を宿に向かわせるだけ。
キーをシリンダーに差し込み、スタートまで捻る。
力強いディーゼルノートが響いて、車体が軽く振動し始めた。
ハンターおきまりのサイドスティックに改造された操縦桿を握り、セレクターをドライブにするとゆっくりとアクセルを踏んだ。
モニターを注意深く見て擦らないようにして、戦車専用車線を通って投宿場である「メカニカル・イン」を目指す。
そこは戦車ドック併設の宿屋で、ロンドの馴染みである。
74式のヘッドライトが、彼の行く先を照らしていた。



Dパートへ
琥月の感想

virgoさんから送られてきた小説のCパートです。
このパートでは、マタドールキラーの一件後ハルト達の様態、ロンドの面接でした。
それにしても・・・ハルトさん達ってお金持ちなんですね。(^^;
20万ゴールドもの大金をすぐに出せるなんて・・・
あと、依頼を受ける時に面接なんかがあったりするんですね。
ハンター達は、これを職業にしてるから採用してもらうために必死なんでしょう。
それもしょうがないことなんですねぇ〜(ぉ
さて、同じ依頼を受けていたはずなのに面接の会場にはハルトはいません。
気になりますね・・・
では、続きをどうぞ〜

virgoさんありがとうございました。m(_ _)m

あと、これはvirgoさんから来た小説をちょっと手直ししています。
僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。
青字はないほうがいいのでは?というもので、(赤字)は僕がこうじゃないかなと思って直したものです。
まだおかしい所があれば言ってください。

virgoさんへの感想はこちらです
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