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〜エイブラムス駆ける〜 Dパート 作:virgoさんハルトは午前7時には目を覚まし、現在は午前9時。 検査の結果は異常なく、彼はミサキとハルナ共に退院して今は病院近くのレストランで朝食を取っている。 メニューは天然卵を使用したハムエッグと、このレストランご自慢というやはり天然小麦使用のクロワッサン。そして濃縮されたミルク。 どれもこれもおいしく、今の時代にあっては非常に贅沢な食べ物である。 大抵は荒涼とした土地でも収穫できるよう遺伝子操作を受けたバイオ食材が、人々の食卓に用いられているからだ。 安全な天然食材というのは手間がかかるため生産量が極微量で、経済的に恵まれていないと滅多に口にすることはできない。 そんな美味しいものを生きて食べられるのもエイブラムスが代わりにダメージを受けてくれたお陰であり、 「相棒」に対する感謝の念は絶えることがない。 ハルトはその「相棒」の状況を、ハルナから聞いた。 朝食を食べ終えたらドックを訪れることになっている。 それにしても20万ゴールドとは随分やられたものだと思う。 でも見方を変えればあの大群の衝突を受けての事だから、「20万ゴールドで済んだ」と考える方が妥当だろうか。 どちらにしても修理可能なダメージで良かった。 それらの安心感が、ハルトの食を進める。 だがミサキは少し違う。 彼はそもそも今回のイスラポルト行き自体釈然としないものがあり、その挙げ句にこの様である。 ともかくなぜあの依頼を受けようかと思ったのか。その答えだけでもきちんと聞かないことには、心の収まりようがない。 ミサキは聞くなら今しかないと思った。 「ハルト、もういい加減教えてくれても良いんじゃないのか。そもそもなぜあんな胡散臭い依頼を引き受けようと思ったのか」 ハルトはその言葉を聞いて、ミサキのやり切れない気持ちを強く感じた。。 朝の食卓を、何とも言えない緊張感が包み込む。 ハルナはその緊張感を感じ取り、居心地の悪さを感じて二人の顔を見比べた。 「わかった。話そう」 ハルトは話をする心構えを取ってから、食器を皿の上に置いた。 「最初はカンみたいなものだった。あの依頼を見たときになにか心に引っかかる感じがして。 それを確かめたいと思う気持ちから受けようと考えたんだ。でもミサキから資料を貰ったあの夜、心の引っかかりの理由を思い出した。 それを今から話するよ」 その話は遡ること4年前、ハルトが駆け出しをようやっと脱した頃の話である。 当時のハルトは当然一人で仕事をしていた。 戦車は今のエイブラムスではなく型式もよく分からないようなクラシックだったのを、今は既に懐かしい時の引き出しから出す。 2ストロークのターボディーゼルエンジン。 標準装備を改造したトーションバーと、ハイドロニューマチックを組み合わせたサスペンション。 Cユニットはエミー系のユニットを装備。 それに135ミリライフル砲と補助武器として戦車搭載型のアサルトビームを搭載し、 防御力強化のためにリアクティブアーマー(爆発性反応装甲)をつけていた。 クラシックを誤魔化すための無理矢理な装備とも言えるが、なかなか良い働きをしてくれたものだ。 ハルトはその戦車に、昔話に出てきた川に済む魔女「セイレーン」の名を付けていた。 さて、そんな思いでの時のある日、ハルトは「ウールブランケット」という町を訪れた。 アズサの東、約30キロほどにある人口2000人ほどの大きな(この時代では)町である。 瓦礫とバラックが大半の典型的な、難民キャンプの発展集落であった。 産業らしい産業はないが、通りすがりのハンターやトレーダーが補給と宿のために落としていく金が人々を潤す。 ハルトもロッコへ向かう途中に燃料と砲弾を補給し、道すがら稼いだ作業料をハンターオフィスで貰うために寄ったくちで それほど長居する気もなかった。 整備がスムーズならば一日。遅くても三日以内には出立できる予定だったが、一つの事件が彼の足を止めたのだ。 ハルトの記憶が二人の仲間の前に開かれていく。 ハルトが「セイレーン」と名付けた戦車は、他の人間には単なるディーゼルノートにしか聞こえないが、 主にとっては美しい声色を響かる彼女の「シューズ」、履帯で軽やかなステップを踏んでいる。 セイレーンのエンジンはシルフィードというタイプだが、当然同じタイプのエンジンなら排気系を改造していなければ音などそう変わりない。 そう聞こえるのは主の精神的なものなのは自明である。 その精神的なものとは一つには愛車に対する愛着であり、もう一つはハンターならば仕事上の充実感、平たく言えば金のことである。 今のハルトには前者は当然のこととして、後者も大きく関係している。 ここ一週間は非常についていて比較的高額なターゲットにありつくことができ、作業料は既に1万5千ゴールドほど溜まっている。 比較的高額と言っても賞金首ではないから、まぁそれなりの数の戦闘はこなしたのだが。 ただその割に支出、ダメージによる装甲の傷みだとか、砲弾もさほど使わずに済んだのでなおさら機嫌は良くなる。 最も一ヶ月前まではかなりハードなバトルをこなしていたから、総じて考えるとトントンといったところだろう。 ともかく勝ち戦の気分が格別なのは間違いないことだ。 この気分をさらに味わうにはハンターオフィスで作業料をより早く貰うことと、 酒場で天然牛のフィレステーキでも食べながら極上のバーボンをやるのが最も良い。 現地点から最も近いハンターオフィスはウールブランケットという町であると、ナヴィゲーションシステムの回答は既に出ていて、 現在は無理のない範囲での最大速度でそこへ向かっている。 「ウールブランケット(羊毛の毛布)」とは随分変わった名前だとハルトは思った。 大体に置いて変わった名前の町や村は多いが、それなりの由来はあるものだ。 特産品が羊毛製品なのだろうか。 まあ詳しくはついてみれば分かるだろうとハルトは思い、やがて気づくと鼻歌を歌い始めていた。 まだ見ぬ町での祝杯を再び考え、気分が高まっているからだ。 被視認性を落とす迷彩シールド(光学迷彩)の効果もあり、敵と遭遇することなく進めることも鼻歌を引き出したのだろう。 それから戦車を進めること1時間、ハルトの目に砂嚢とセメントで固められたチープなバリケードが入ってきた。 バリケードの周囲には10メートルほどの塔の上に設置された機関銃座と、 100ミリ口径程度の砲身が顔を覗かせているトーチかが設置されている。 それらはセイレーンの姿を確認すると、鼻面をそちらへ向け始めた。 「こちらはウールブランケット守備隊。貴殿は誰か」 ハンター共通周波数を使用したおきまりの誰何だ。 これに答えないと町に近づく前に、銃撃と砲撃の雨霰を浴びることになる。 「こちらはモンスターハンターのハルト・ミル。登録番号JAU116322」 ハルトはスピードを30マイルまで落とし、相手の質問に対し丁寧に登録番号まで答えた。 彼らはそこまで調べはしないだろうが、初めて訪れる町に誠意を見せるつもなのだ。 「よし、砲塔を後ろへ向けてロックしろ。100メートル以内に入ったら速度を15マイル以下に落とせ」 「そのときにモンスターが襲ってきたら?」 「自分の運の無さを呪うんだな」 随分厳しい検問である。 それは当然かも知れないが、ここまで厳しいとちょっと気に障る。 しかし守備隊がそういうのだから、それに従う意外にない。 ハルトは砲塔を真後ろへ向けると、砲塔ロックのスイッチをオンにした。 「ガチッ」という音と同時に砲塔旋回モーターへの電力の供給は止まり、機械式ロックが砲塔と車体を完全に固定した。 やがて100メートル手前を示す標識が目に入り、ハルトはセイレーンを15マイルでゆっくりと走らせる。 「よし、ゲートを開けるからそのままのスピードで進入するんだ」 目の前にある鉄の扉が金切り声と盛大なモーター音と共に、ゆっくりと左右に開く。 セイレーンがその門を通過して町の中に入ると、もう一つの検問ゲートがある。 ゲートの詰め所の上には「ようこそウールブランケットへ」の文字が見えた。 「どこが<ようこそ>なんだ」 そう独り言をいいつつ、ゲートの手前で停車させた。 するとカーキ色の長袖シャツにズボン、それにマガジンパウチ付きのサスペンダーと自動小銃を装備した検問員が近づいてきて、 セイレーンの横に立った。 ハルトはハッチを開いて、顔を車体からちょこんと出す。 周囲をちらりと見ると、目にはいるだけで3人の人間に囲まれている。 彼らの服装は色も形もバラバラで武器も、ある者は自動小銃でありある者はサブマシンガンであったりと、 おおよそ統率のとれた軍隊とは思えない。 守備隊とはいっても事実上は民兵の集まりのようだ。 まぁ田舎の町の守備隊なんてこんなもんだが。 観察を終えて顔を左に向けると、検問員の顔の高さとより少し低いくらいで、話をするためには顎を上へ上げなければならなかった。 目の前の検問員は年の頃40歳ぐらい、落ち着きがあり隙が無い感じ。経験も豊富そうだった。 「ようこそミルさん。早速ですがハンター登録証を拝見できますか」 別にこいつに登録証を見せる義理はないのだが、見せないと入れないようだから素直に応じることにした。 服の左側についている胸ポケットから皮ケースに入った登録証を取り出し、検問員に差し出した。 検問員はそれを受け取ると、登録証の写真と本人の顔をしげしげと見比べた。 「こちらへはどのようなご用件で?」 ハンターの落とす金で潤っている割には、ハンターへの扱いはあまり良くない。 それともハンターによる事件でもあったのだろうか。 「ハンターが町に寄るのは、戦車のメンテナンスと久々のベッドが目的だというのが常識だと思っていたが。田舎の町は常識が違うのかな?」 ハルトは検問員の態度にカチンときてつい憎まれ口を言い、それに検問員達は殺気だった。 特に検問員の中に一人いる若い男は眉間にしわを寄せ、いまにもつかみかかってきそうである。 しかし話をしている検問員は年の功と言うべきか、眉一つ動かさずむしろ余裕の笑みを浮かべた。 「仰るとおり田舎は都会とは違います。皆ルールを守って規律良く過ごしていますよ。私たちもこうしてならず者に目を光らせていますしね」 つまり自分らに逆らうと痛い目を見るぞ、か。 こちらは戦車で武装しているが、余裕があるというのは彼らもそれなりの装備をしていると言うことかも知れない。 それとも経験豊富なはったりか。 どちらにしても下手なことを言ってつまらないもめ事は起こすのは避けるに限る。これからは口を慎もう、とハルトは思った。 「滞在はどのくらいの期間になりますか」 「まあ長くて2、3日だろう。整備の結果次第だけどね」 「わかりました、良い滞在を」 検問員は登録証の入ったケースをハルトに返し、詰め所へ向けて右手を挙げた。 詰め所の中にいる男はが機械を操作し、ゲートの遮断機が持ち上がる。 ハルトは遮断機が上がりきるのを確認し、セイレーンをゆっくりと発進させた。 ゆっくり通過していく戦車を、先ほどの若い検問員が親の敵でも見るような視線で睨み付ける。 「なんであんなピリピリしてるんだ?」 敵意を横目にしながら、ハルトは率直な疑問を持った。 物騒な連中を入れないために誰何を行うのはどの町も共通だ。 でもここは特にナーバスになっているような気がする。 もしかしたら何度か顔を見せるうちに、かたくなな対応は解けていくのかも知れないが。 まぁいくら想像しても本当のことは分からないし、意味のないことである。 あとでバーで酒でもやりながら、地元の人間やこの村の馴染みになっているハンターに聞けばよいだろう。 ともかく今はハンターオフィスに行かなければ。 道しるべを確認しながら、目的地へと向かう。 ハルトはゆっくりめのスピードでセイレーンを走らせながら、町並みを観察してみた。 道路脇に立つ建物は土づくりの家、バラック、あとは露天のテントだ。 所々に瓦礫と化した遺跡並のビルディングがあり、そこも商売で使われているようだ。 「一泊5ゴールド」「可愛い女の子多数」「自動小銃、各種爆発物特価販売中」等の宣伝文句を書いた看板が、それらの遺跡に掲げられている。 人出は多い。ハンターやトレーダーが多く寄るようなので、そういうことも関係しているのだろう。 疲弊しきって夢も希望も感じられない町も多いが、ここはそんなことは無いようだ。 だとすると、なおさらあの検問員たちの態度は気になる。 彼らにとってハルトのような人間は歓迎すべきではあっても、不快感を与えるべき相手ではないはずだ。 それを承知の上で、厳しく対応する必要でもあるのだろうか。 町並みを眺めながら幾つかの交差点を曲がると、ハンターオフィスの看板が見えてきた。 「あれか」 ハルトは駐車場の案内板を見て、そちらへ向けて車体を旋回させた。 ウールブランケットの町のオフィスはこの町に多い土づくりの建物である。 高さは2階建て。土づくりというのはもろいイメージを持っていたが、意外としっかりしているようだ。 オフィスの建物を壁沿いに進むと簡易な屋根のかかった駐車スペースがあり、既に何両かの戦車や装甲車が停車していて、 数人のオフィサーがディスクの検査をしている。 それらを横目に見ながらハルトも検査を受けるために、開いているスペースの一つに停めた。 車体を地面に打ち込まれたロープの枠に収めると、エンジンを停止させてシートベルトを外す。 そして貴重品等が入ったバックパックを荷物入れから取り出し、ハッチを開けて体を車外へと身を乗り出した。 その時、いつもの癖でつい砲身を避ける動作をしてしまった。大抵は砲塔を前へ向けていて、砲身を避けながら降車するからだ。 「そうだ、今日は後方へ砲身が向いているんだっけ」 癖のついた動作をした自分に何となく照れて、でもそれを周囲の人間が感づいていない事に何となくほっとした。 途端に自分自身がなんだか可笑しくなった。 普段は化け物共や極悪人を追いかけて生きるか死ぬかの世界を駆け抜ける自分が、こんな些細な事で心を動かしたことが不似合いに感じたからだ。 自身のことをそれなりのハンターであると自負する部分があったが、それでも人間味は抜けないのだなと妙に納得してしまう。 いや、そんな自負心自体が身の程をわきまえぬ自惚れというものか。 ハルトは心の中でブツブツつぶやきながら、操縦手ハッチを閉めてロックをかけた。 「さてと、オフィサーを呼ばなければ」 土づくりのオフィスへ向かって、歩き始める。 ハルトが駐車したスペースからオフィスまでは約50メートル。 その距離の間を、周囲の様子をじっくり観察しながら歩いてみる。 戦車は5両ぐらいか。装甲車は3両。 そのうち戦車2両と装甲車1両が検査を受けている。 あと非武装の4輪駆動車やオフロードバイクが駐車しているのが見えた。 大抵そういった車両に乗るのは携帯ディスクレコーダーを背負った、肉弾戦をメインで戦う奴らだ。 そしてそのような肉弾戦メインのモンスターハンターは総じて、「ソルジャー」と呼ばれる。 普通のハンターも銃を担いで戦うことがあるので、分類は結構曖昧だったりするのだが。 事実、今は戦車に乗っているハルトもかつては非武装の4輪駆動車で仕事をしていたのだから。 まあ強いて言えば、肉弾戦をメインに戦っていると思っていて、そこに誇りを感じる「自称」の連中とでもしておけば良いのだろうか。 あるいは戦車を持たぬ「とりあえずソルジャー」である。 ところで彼らソルジャーは戦闘記録とその検査のやり方には、特徴的な部分がある。 当初、ソルジャーには携帯レコーダーなるものが配られていた。 それは戦車に乗せる「記録ディスク」の簡易携帯版みたいなものだ。 彼に与えられるレコーダーはバックパックに納められ、そこから延長したカメラが戦闘の様子を記録する「携帯レコーダー」なのだ。 それが作業料なり賞金なりになるのは、戦車に乗っている者と変わりない。 一番違うのは携帯する関係で専用バッテリー(貸与)で8時間置きに充電するか、予備のバッテリーを持っていかなければならないことだ。 戦車だと補助エンジンやオルタネーターが発電する電力を使えるのだが。 もっともこの携帯レコーダーというのがいい加減な機械で、激しい肉弾戦では必ずしも記録する事は完璧にはできない。 そこで作業料や賞金を貰うために、そのモンスターや賞金首の証拠を持ち帰ることが多くなってきた。 例えばまどろみ草なら特徴的な雄しべか雌しべ。 ヒトクイムカデなら触角の先端についている球形状の触感部がそれにあたる。 こうして証拠品を持ち帰る方が確実で定番化したため、いつの間にか携帯レコーダーは廃れて無くなってしまった。 ハルトは駐車場の4輪駆動車を見ながら自分の「ソルジャー時代」を思い出し、ハンターオフィスのドアを開けた。 建物の中に一歩踏み込むと、ざっと周囲を見回した。 外見とは裏腹に建物内は壁も床も木の板張りで、天井ではフライファンがくるくると回っている。 入口を入って左手は喫茶室のようになっていて、ごっつい戦闘装備を身につけたモンスターハンター達が コーヒーやケーキを美味しそうに嗜み、談笑しているのが見えた。 またテーブルの間を場違いな服装の給仕係達が、トレーに沢山のグラスやカップや皿を載せて忙しそうに行ったり来たりしている。 右に顔を向けると何台ものコンピューター端末があって、真剣な目つきで賞金首情報や依頼情報を見ている人々が目に入った。 Eパートへ 琥月の感想 virgoさんから送られてきた小説のDパートです。 ハルトがこの依頼を受けようと思った理由。 それはハルトの過去の思い出が関係していた。 ハルトの過去・・・その時ハルトに何があったのか・・・ すっごく気になりますねぇ〜(^^; virgoさんありがとうございました。m(_ _)m あと、これはvirgoさんから来た小説をちょっと手直ししています。 僕の判断で改行をして、誤字、脱字であろうというものを変更しています。 赤字はつけた方がいいのでは?というものです。 まだおかしい所があれば言ってください。 virgoさんへの感想はこちらです。 prev << novelsmenu >> next |